よしのーと!

山歩き

釈迦如来にちなんで名付けられた「釈迦ヶ岳」を歩く

お気に入り

お気に入りに追加

釈迦ヶ岳しゃかがたけは、「日本一広い村」として知られる奈良県最南端の十津川村に位置しています。登山口までの道のりも遠くて大変ですが、ハイキングコースからはとても美しい景色が見られるので、挑戦の価値はあり! 今回私は奈良県吉野町にある大師山妙法寺だいしさんみょうほうじの住職であり山伏の大塚さんの案内の下、釈迦ヶ岳を歩きました。

ハイキングコースの大部分は稜線に沿っており、広々とした森と大草原、感動的な風景が広がります。関西にある山の多くはたくさんの木々に覆われているため、釈迦ヶ岳のように開けた視界を持つハイキングコースは珍しいような気がします。訪れた日は悪天候だったのですが、それでも自分史上最も美しい景色の1つに出会えたハイキング体験となりました。

 

釈迦ヶ岳は「大峯奥駈道」の一部

釈迦ヶ岳は吉野町と約90キロ離れた熊野本宮大社を結ぶ「大峯奥駈道おおみねおくがけみち(世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部)」の一部になっていて、その他の道と合わせて「熊野古道」を構成しています。熊野古道の他のルートは国内外の観光客の注目を集めているものの、大峯奥駈道はアクセスの難しさと険しさからハイキング客が少ないのが現状です。しかし、自然の豊かさと静けさを感じたい人にはピッタリのコースです。

1300年変わらず山伏たちに利用されてきた大峯奥駈道

大峯奥駈道は、日本古来の宗教・修験道の修験者(山伏)たちによって使われてきた修行の道です。修験道は仏教と神道の教えが融合した宗教ですが、ベースには自然崇拝があります。中でも山は「神聖なものであり、俗世とは異なる世界である」とあがめられていて、修行も山の中で行われます。

山伏は山を歩いて自然の霊力を身に付けることによって自己を引き上げ、他者にその力を分け与えて世の中を良くするために山岳修行を行います。その昔の山伏は、町から町へと旅をして修行によって身に着けた力を現地の人々に分け与えていたとも言われています。

 

いざ出発!

吉野町から十津川村に向かった私たち一行は、出発準備のため登山口の横にある小さな駐車場に車を止めました。吉野町を出た時から降り続いていた雨は止む気配がなく、少しテンションが下がっていた私ですが、いそいそとレインコートを着込んで出発準備開始。

「雨なら別日に変更すればいいんじゃないの?」と思う人も多いと思います。しかし雨だろうが雪だろうが強風だろうが、山伏はハイキングのためではなく修行のため山を登るので、「天気が悪いから日を改める」ということはしないのです。

釈迦ヶ岳の登山口で祈りを捧げてから登山開始

私たちが登山を行ったのは夏だったのですが、ガイドの山伏・大塚住職からは長そで長ズボンを着てくるように指示されていました。というのも、山ではあちこちに「ヒル」がいるから。妙な病気を媒介する生物と比べれば、ヒルは皮膚にくっついて血を吸うだけなのでそこまで危険ではありません。……とはいえ、嫌ですよね。ヤツらはちょっとした隙間を狙ってきます。もし長そで長ズボンを着用してもなおヒルにやられたら、それはもうある種の山岳修行と思うほかありません……。

さて、準備ができたところでいよいよ出発です。ほら貝を吹き鳴らして山の神様にあいさつをした後、入山のための儀式を行って出発。

山頂まで倒木がずっと続いていました。この辺りにも2019年の台風の影響が出ていたようです。

入山後も雨は止むことなく降り続き、道がぬかるんでゆっくりしか進めなかったものの、徐々に景色は草原から低木へと変わっていきました。

周辺には幻想的な雰囲気が漂っており、雨に濡れた美しい木々の中を歩いていると、まるで聖地の奥深くに迷い込んだかのような錯覚すら覚えました。

一瞬雨が止んだ瞬間に撮影。山の稜線に沿って霧が被っています。

時々ほら貝を吹き鳴らす以外、私たちは黙々と歩き続けました。静かに歩くこと自体が修行の1つとされているからです。スタートから約1時間歩いたところで山頂へと繋がる最後の直線に到達し、そこからさらに急な上り坂を40分くらい歩いたて、ようやく山頂に到着!

釈迦ヶ岳の山頂は大して見物するようなものはなく、灰色の厚い雲と古い大きな釈迦如来像だけが私たちを迎えてくれました。もし青天に恵まれていれば、360度広がるパノラマビューが見えたことでしょう……。ちなみにこの釈迦如来像は、その昔1人の男性が3分割して地上からこの場所まで担ぎ上げたと伝えられています。

山頂にある釈迦如来像

少し休憩した後、大塚住職が釈迦如来像に祈りを捧げ、その後昼食のために下山を開始。しかし登りと比べると下りはかなり難度が高く、私はもちろん、経験豊富な大塚住職ですら足を滑らせてしまいました。しかも別グループの登山者が10mほど滑落かつらくするという場面(幸い大きな怪我はなかったようです)にも遭遇してヒヤッとしたものの、何とか怪我をすることもなく出発から約5時間、無事に駐車場まで戻ってくることができました。

最後に山頂に向かって儀式を行い、山岳修行は終了。悪天候にも関わらず、無事に歩き抜くことができたのは、山伏・大塚住職のおかげです。

最後に彼が言った、「山岳修行は山歩きの楽しさを味わうために行っているわけではありません。山伏は山岳修行を行うことで神聖な自然と繋がり、自己を鍛え、他者の幸せというより大きな目的達成を目指しているのです」という言葉が印象的でした。

悪天候という逆境は、私たちの成長のために大自然が与えた機会だったのかもしれません。修行の場という側面があるからこそ、釈迦ヶ岳は世界中のどの山とも、景色の美しいハイキングコースとも異なっているのです。

山頂近くの張り出した岩

この日の締めくくりは、十津川村にある温泉! 雨の中を歩き続けた日に入る温泉は格別です。私が思うに、ハイキングの大きな魅力の1つは下山後に温泉に入るその瞬間! 大抵の場合、ハイキングで有名な山の近くには温泉があるのです。日本っていい国だなぁ。

Nate

Nate

奈良北部で数年暮らした後、南部・吉野への移住を決めたアメリカ人。外国人に吉野の魅力を伝えるための活動をしています。

こちらの記事もぜひ!