豊かな自然と長い歴史を持つ日本の中でも、奈良県南部の山々ほど美しい場所はない、と私は思っています。吉野に移り住んで以来、私は奈良県南部のあちこちを探検したのですが、中でも吉野町にある「喜佐谷」と「高滝」はとてもおすすめの場所です。
喜佐谷はその美しさと観光名所・吉野山からのアクセスの良さにも関わらず、ほとんど観光客のいない落ち着いた場所です。私は自然の中で、ある種の孤独感と没入感に浸るのが好きな人間です。そのため、美しい自然の光景が広がるのに、観光客がほとんどいない喜佐谷のような場所は貴重だと思うのです。喜佐谷の美しさは昔から有名だったようで、万葉集にもその名前が登場します。
喜佐谷を流れる渓流「象の小川」は「やまとの水」のひとつに選ばれており、初夏にはホタルが見られる場所として知られています。近隣には古風な家々が建ち並んでいて、その中を歩いているとなんだか昔にタイムスリップしたかのような気分になります。
喜佐谷のハイキングコースは4キロ程度。時々険しい部分もありますが、コース自体はそれほど難しいものではなく、森の景色を見ながら「この木々が昔から地域の林業を支えてきたんだなぁ」と考える余裕が持てる程度です。また、下流で高滝となる、いくつもの小さな水の流れが象の小川へと流れ込むのを見ながら歩くのも私のお気に入り。
ちなみに、川辺は一面緑のカーペットを敷いたように苔が広がっていることから、苔好きの方なら大興奮間違いなしです。
喜佐谷には、私のお気に入りの神社の1つ「桜木神社」もあります。象の小川の上にかかる小さな橋を渡って境内に入ると、ご神木である樹齢800年の杉が目に飛び込んできます。ここは、壬申の乱を起こした大海人皇子(後の天武天皇)ゆかりの地でもあります。
喜佐谷から北東方向に15分程度歩くと、天武天皇と妻の持統天皇が愛した「宮滝」という地区があり、現在では川沿いで水遊びとバーベキューができるようになっています。夏には多くの観光客が訪れ、高さ数メートルの場所から飛び込んで遊んでいる若者グループも見かけます。水遊びが許可されているとはいえ、川はプールとは違います。流れに逆らって泳げるほど泳力に自信がある方以外、飛び込みは止めた方が無難です。
さて、ここまで読んだ貴方なら、吉野町の美しい風景を見たりハイキングをしたりしたくなったのではないでしょうか。喜佐谷は、あちこちの山を歩き回っている私にとって「関西ベストハイキングルート」のうちの1つ。皆様にもぜひこの場所の美しさを知っていただきたいと思います。
アクセス方法
喜佐谷や高滝へのアクセス方法は2パターン。喜佐谷の下部(象の小川が吉野川に合流する辺り)から高滝へ向かう1つ目のルートは、スタート地点である近鉄大和上市駅からかなりの距離を歩かなければいけません。しかし、川沿いに立ち並ぶ家々を見ながら田舎の雰囲気を味わうことができ、夏場には、途中の吉野川で水遊びすることだってできちゃいます!
喜佐谷・高滝の散策を終えた後は、Uターンして来た道を引き返すのではなくそのまままっすぐ吉野山の方へと進み、山を下って近鉄吉野駅から電車に乗ることができます。なお、大和上市駅から喜佐谷まで行くバスもあるのですが、本数が少なく最終便も早いので、利便性はよくありません。
2つ目のルートは、喜佐谷の上部(近鉄吉野駅経由でアクセスできる、吉野山のエリア)から下るパターン。観光名所である吉野山を満喫した後、散策の締めくくりとして高滝が見られるこちらのルートの方が、個人的にはおすすめです。もし吉野駅から歩く場合、飲食店やお土産物屋が並ぶ吉野山のメインストリートからでも、メインストリートの左側にある人通りの少ない「ささやきの小径」からでもアクセス可能です。
メインストリートを進む場合、標識を見逃さないようにしてください。「吉野・宮滝万葉の道」と記載されている方へ進み、車道が行き止まりになったところで左へと進みます。そのまま行くと未舗装の道となり、次の標識が出てくる頃には、喜佐谷はもうすぐそこです。
吉野駅から「ささやきの小径」を通ってアクセスする場合、駅を出て直進の後左の道を進み、川に沿って歩き、分かれ道で左に進みます。やがて見えてくる如意輪寺を抜けて少し進むと上り坂があり、標識があるので、その指示に従って宮滝方面へと進んでください。メインストリートを進んでも「ささやきの小径」を進んでも、高滝へと続く道は下り坂です。
喜佐谷・高滝まで川沿いの街並みを歩くパターンも、吉野山を歩くパターンも、どちらを選んでもきっと満足していただけると思います。ただし、トイレや商店などは吉野山エリア以外にはないので、もし大和上市駅経由で川沿いを歩いて進む場合、水や食料などをしっかりと準備してからお越しいただくことをおすすめします。