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生き物に囲まれたお寺の生活~「テンさん」と愉快な仲間たち~

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奈良生まれ奈良育ち、奈良在住歴40年以上の私。御所市内のお寺の副住職と結婚し、2018年からお寺に併設されている庫裏くりで暮らしています。このお寺の歴史は古く、史跡もあるのですが、観光に特化した寺院ではないので、法要や寺行事以外で訪れる人は檀家さんや、ご近所さん、業者さん、同じ宗派のお坊さんが中心です。しかし中には珍しい来訪者も。そんな日々のお寺の出会い・ご縁のお話。今回は人間以外の訪問者のお話です。
 

すべての生き物に対して開かれている「お寺」

基本、訪問者を拒まない「お寺」というところ。生き物も自由に入ってきます。

どのお寺も悩まれていると思いますが、人間以外の生き物が人気のない時間に多数出入りします。お寺は古い木造であるところがほとんどで、隙間が多いお堂内と廊下はほぼ屋外状態。虫系は、あえて羅列を避けますがご家庭で悩まれているものの中でも、とりわけサイズが大きいもの、もしくは尋常ではない数と遭遇します。

あと、ひょっとするとどこのお寺さんも同じなのかもしれませんが、物が延々と増えていく寺ならではの事情(処分できない要素のものが多い)や、お寺に住む人の人数の減少もあって、お寺にはいわゆる開かずの間、侵入不可ゾーンが少なからず発生します。そのエリアには、何かが潜んでいても分からない場合も。私が今までに出会った一番の大物は、賽銭泥棒(人)です。

入り組んだ廊下の奥でよその猫が住み着き、増えていたりもします。私が居住しているこのお寺の場合、修復・リフォームの際にそのような箇所を大規模にテコ入れせざるを得なくなりました。その片付けの際、未知との遭遇(主に動物の亡骸)に何度も叫び声を上げたものです。

 

中庭のぬしと初のご対面

寺では、庭の木の消毒を年2回ほど造園業者さんにお願いしています。境内地に桜の木があり、放っておくと大変なことになります(放っておかなくても、何年かに一度毛虫が大発生します)。桜がたくさんある寺社の方は、どこも苦労されているのではないでしょうか。ひどい時には秋を待たずに葉が無くなります。そうなると食べ物を求めて毛虫が大移動し、その図たるや、もはやホラーです。

お寺のある地域は、万葉集にも詠まれた古来よりツバキが有名な所です。そのため、境内地にもかなりの数のツバキの木があるのですが、ツバキには葉を好む毒を持つ虫(チャドクガ)がつくので、ほぼ全ての木を消毒してもらっているのです。

ある時、いつものように業者さんに消毒作業を依頼しました。この作業は、大きなタンクを運んで、噴霧器を使う大掛かりなものです。

お寺の中庭にも木があるので、作業していただくために中庭への扉を開けたり物を移動させたりしていたところ、突然「カザカザガサ」と中庭中央の木が大きく揺れ出しました。「え、何事?」と音の方に視線を向ける間も無く、下の方で「ドスン!!」と音がして、キツネのような金色の毛の、タヌキサイズの生き物が縁の下めがけて突っ込んでいき、そのまま猛スピードで視界から消え去ってしまいました。

イタチにしてはころころして大きい、猫にしてはずんぐりしている、タヌキは木に登らないし、アライグマのようなシマシマ尻尾ではないし…。しばらくボーゼンとしていたのですが、一体どちらさんなのか気になり、ネットで調べてみたところ、どうも「テン」ではないかという結論にたどり着きました。

おー、初めて拝見しました。毛皮としても重宝されていたというテン。落ちてきた子の顔は見られなかったのですが、ネットで上がっている画像はかわいい顔しています。(でも、どう猛らしいので見かけた際はご注意を!)

うちでは、通り道と思われる場所に毎年のように付けられている痕跡があり、ずっと何者か気になっていました。その大きさといい、足跡といい、調べれば調べるほどまさにこれ。なんでも、テンは木の空洞に住み着くのだそうです。これまでまじまじと見たことがなかった中庭の木をよく見てみると、なるほど、中が空洞になっていました。消毒の匂いが漂ってきて、びっくりして飛び出したのでしょうか。木の中はそんなに広くはないけれど、居心地良かったんだろうな。

「こんなところで丸まって住んでいたんだなぁ」と日本昔話のようなワンシーンに、何やらほっこりした気分になりました。今まで何者か分からないけど、中庭の決まった場所にフンをしていく生き物の存在に腹を立てていた私ですが、よく考えると廊下にはその痕跡がほとんどなかったので(コウモリやネズミは廊下にも容赦なくします)、テンさんは、むしろお行儀よいですね。(ひょっとしたら私より長く住んでいそうなので何となく、さん付け)

私が見たのは金色の後ろ姿。あっという間にいなくなったので、写真は著作権フリーのイメージ写真です。夏には黒っぽく毛の色が変わるようです。

 

お寺で巡るいのち。人間もその輪の中の一部

テンさんの住まいは木のうろだけとは限らないようで、足跡が本堂外回りの屋根の隙間に向かって付いています。そこはご遠慮願いたいので、申し訳ないけど出て行っていただきたい…。ただ不思議なことに、テンさんが活発に動いたことで、コウモリが移動したようです。しかも数が減りました(フンにより判断しています)。コウモリ…食べたんだろうか、テンさん…。

話が少し逸れますが、大きな種がくると小さな種が去るのは鳥に関しても同じようで、ざっくり言うと「ヒヨドリ・鳩 < カラス < トンビ」のようなパワーバランスです。彼らは本堂屋根の一番高いところにとまって、すぐマウンティングしようとします。

中庭の古瓦。いつの頃からか、ここにあります

何種であろうと、野生動物が縄張りや住まいを作ると掃除や衛生面で困ることは多いので、人間は何かしら対策を立てようとします。しかし今回、「大きい種がいなくなったら、小さな種が舞い戻ってくるだけ」で常に「みんなのお寺」状態なんじゃないかということに気付かされました。やっぱり人間もそんな自然の輪の中の、ほんの一部ということなんだろうか。巡り巡るいのちの出会いと気づきに感謝しつつ、黙って掃除に精を出しつつ、ひとまず今回は丸く収めたいと思いました。いやいや、屋根の隙間は何とかしないと!

暑くなってくると、「ハグロトンボ」という、体に美しい緑の光沢のある、羽の黒いトンボがひらひらと優雅に中庭を舞います。ここでもいろんな生き物が共存しています。

よしのーと編集部

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