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初心者一家が明日香の棚田で稲作デビュー!~田植え編~

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成長期の子どもを抱え、米の消費量が年々上がる一方の我が家。特に下の娘は「白米をおかずにして白米を食べるほどの米好き」ときています。しかし、これだけの米を消費しておきながら、今まで我が家は誰も米作りをしたことがない…。日本人として、これはいかがなものか?

突如、ムクムクとわき起こった農耕民族の末裔としての危機感と責任感に突き動かされ、我が家は奈良県明日香村の「棚田オーナー制度」にチャレンジすることになりました。

「棚田オーナー制度」とは、奈良県明日香村の稲渕地区にある棚田の一部を借り受け、インストラクターの指導を受けながら稲作を体験し、秋には収穫したお米がいただけるというシステム。「NPO法人明日香の未来を創る会」によって運営されています。

「全国棚田百選」にも選ばれている稲渕の棚田は、私の大好きな場所。特に彼岸花の咲く頃の風景は美しく、ユーモラスな案山子かかしのコンテストも有名で、毎年多くのカメラマンが訪れる観光スポットでもあります。

張り切って申込んだ私の元に後日届いた案内書には「田植え靴をご用意ください」との一言が。「タウエグツ」ってなんだ?と思い調べてみると、田植え靴とは見た目こそ普通の長靴と変わらないものの、上の部分がクタッとやわらかく、足に密着するタイプの長靴のことらしいです。

「普通の長靴やったらあかんのかなあ…?」と思いながらも、「形から入れば、より気合いも入るだろう」と早速ネットで注文。ドキドキしながら本番を待ちました。
 

1日目:草刈り&田植え練習

6月の某週末。いよいよ土日の2日間を棚田に捧げる時がやってきました。1日目は草刈りと田植えの練習、2日目は田植え本番というスケジュールです。

集合場所には、続々とこの年のオーナーさんたちが集まってきました。新品の田植え靴をはき、どこからどう見ても「初心者」な私たち一家。周りを見れば、私たち同様に新品の装備に身を包み、慣れない様子の方もいれば、いい感じに泥がこびりついた田植え靴をはき、気さくに挨拶を交わし合う「ベテランオーナー」の姿も見られました。

それもそのはず、このオーナー制度は2020年で25年目になるというのです。5年、10年、中には20年以上もこの棚田に携わり続けている方もいるようで、理事長さんから感謝状が贈られていました。

私たちに割り当てられた区画は、こちら。
まずは、草刈りからスタート!ちなみに、田の周辺に設置されたトタンの柵は、イノシシよけなのだそうです。米作りは雑草とイノシシとの闘いでもあります。

草刈りを終えた後は、田植えの技にかけてはNo.1だという「81歳にして現役バリバリ」の山本さんに、そのイロハを教えていただきました。

鮮やかな手付きで苗を植えていく、81歳の山本さん

苗代を手に取ると、サッと田んぼへつかり「こんな風にな。後ろ向きで。足の下に2本」と、苗を5,6本摘まみ取り、足の間に植えてみせる山本さん。「こっちに2本。こっちに2本」とさらに両足の左右へ2本ずつ、ひょひょいっ。あっという間に6本の苗が横一筋に均等に植えられました。さらに「ほんでこれ、往復いくねん」と、右へ左へひょひょひょいっ!その技は早い!そして美しい!

「意外と簡単そうにも見える…」と、一瞬不遜なことを思う私に「ほな、順番にやってみましょか」と山本さん。勇んで田んぼに入った私は、次の瞬間、己の浅はかさを思い知りました。

田んぼの泥がとてつもなく重いのです!田につかるやいなや、足がズブズブと泥にはまりこみ、一瞬にして身動きがとれない状態に。普通の長靴なら間違いなく足だけすっぽ抜けて、泥の中へ後ろ向きにダイブしていたはず。私はこの時初めて「田植え靴」が必要な理由を痛感しました。使ったことのない筋肉を総動員し、泥の中からなんとか足を引き抜き、もがくようにして何本かの苗を植え終わりました。やはり名人の技はすごかった…!
 

先祖伝来の棚田を守る手段 それがオーナー制度

耕作放棄された元・棚田

棚田のすぐそばには、草木が生い茂った場所もちらほら。呑気に里山らしいその景色に見とれていると、ここもつい数年前までは棚田だったんですよ、と教えられ驚きました。

田は2年も放っておくとすぐに山に戻ってしまい、数年の時間が経ってしまうともう元の姿に戻すことはできないそうです。この稲渕の棚田の歴史は古く、室町時代から続いているともいわれていますが、新たな担い手が見つからず消えてしまう田もあるのだとか。先祖から受け継いだ田を自分の代で絶やすわけにはいかん、なんとか守りたい、と願う地元の人たちが出したひとつの答えが「オーナー制度」でした。

今、私たちが立っている場所は、室町時代から1年もかかすことなく続けられてきた稲作のバトンの舞台なのだと思うと、驚きと同時にその価値の重さが改めて心に迫るようでした。

1日目の作業が終わった夜は、楽しいご褒美がまっていました。理事長さんたちに蛍見物に案内していただいたのです。

ここ稲渕では、地元の人たちの努力によって蛍の生息地が大切に守られており、村の天然記念物にも指定されています。集落を抜け、飛鳥川の上流の方へ歩いていくと…「あっ、おった!」あっちにも、こっちにも。ついーっ、ついーっと淡く光りながら沢山の蛍が姿を見せてくれました。

蛍が飛ぶこの飛鳥川の水は、稲渕の棚田の生命線でもあるのだとか。川から田へと水を運ぶ水路は長さ4800m!室町時代に作られ、今なお現役だというから驚きです。また、棚田は沢山の水を貯える天然のダムともなり、山崩れを防ぐ役割もするのだそう。

稲渕で暮らす人たちが何世代にもわたって大切に守ってきたものが、ここには残されてるんだなあ…。川の水を満々とたたえ、後は田植えを待つばかりの田で鳴くカエルの大合唱を聞きながら、そんなことを思いました。
 

2日目:田植え本番

さて、一晩明けて、2日目は田植え本番日。予想はしていたものの、筋肉痛で体が重い…。しかし、この日は雨もやんで絶好の田植え日和!昨日より沢山の人が集まっていました。

昨日区画分けした田にいよいよ苗を植えていきます。山本名人直伝の手ほどきを思い出しながら、いざ再び田んぼへ!へっぴり腰は相変わらず、さらに泥に足をとられて激しく身体をうねらしながらも、昼前には全ての苗を無事、植え終わりました。

しんどくなかった、といえばウソになりますが、田んぼの泥の感触はなんとも心地よく、景色も抜群。泥って、人の心を柔らかくするんでしょうか?子どもはもちろん、大人もみんな晴ればれとした顔で田植えを楽しんでいるようでした。

棚田のカーブに沿って美しく植えたつもりでしたが、終わってみればガタガタの出来栄え…。それでも「稲が大きなってきたら、それなりになるよ」とインストラクターのおっちゃんに励まされ、早くも「やりとげた!」という充実感と満足感でいっぱいの私たち家族。棚田を見下ろせる展望台に上り、昼食のおにぎりを頬張りました。

「ここの田んぼでできた米は、川のきれいな水がずっと流れているからうまいよ。秋になったら天日干しするしな。ここの米を一回食べたら、もう売ってる米は食べられへんで」と笑いながら話すおっちゃん。

スーパーで買ったお米で作ったおにぎりも美味しいけれど、これ以上に美味しいごはんが食べられるのか、と思うと期待がふくらみます。それに「やりとげた」という満足感は、今の何倍にもなるに違いありません。

よおし、やるぞ!と気持ちを新たにした私。何より歴史ある棚田に自分が少しでも繋がることができたのが嬉しい2日間でもありました。これからの稲の成長が楽しみです!

ウズラたま子

ウズラたま子

奈良生まれの奈良育ち。丁寧な暮らしを心がけているが、のんびりした性格がたたり、最後には丁寧さを捨て去ってしまうどんくさい日々。図書館、古い町並み、ラジオが好き。歴史とお芝居が大好き。2児の母。

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