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伝統産業

伝統工芸の世界に新しい風を吹き込む吉谷木工所

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お正月に鏡餅を飾ったりお月見の時にお団子を載せたりする、あの“台”。見かけたことはあるけれど、その名前を知らないという方も多いのではないでしょうか。

あの“台”の正式名称は「三宝さんぽう」といい、主に神仏に捧げる献上物を載せるために使われています。三宝はここ奈良県では伝統的工芸品に指定されており、国内で出回る国産三宝の8~9割を奈良県(下市町)で製造しているものの、県内ですらその認知度が低いのが現実です。

日本人の宗教離れや生活様式の変化に伴って需要減少が続く三宝。そんな業界にあって「長年培ってきた伝統的な技法を、時代のニーズに合った形で活かせないか」と立ち上がったのが、1910年から奈良県吉野郡下市町に工場を構える吉谷木工所の吉谷侑輝さん。

三宝製造で磨かれた木を曲げる技術と吉野の良質なひのきを使って、新しい商品を生み出そうと一人奮闘する吉谷木工所の若き7代目代表です。

吉谷木工所7代目代表 吉谷侑輝さん

 

現代の生活にマッチした新商品

下市町では後醍醐天皇が吉野に皇居を移したことをきっかけに三宝製造が始まり、材料となる「香り良し・ツヤ良し・“粘り”良し」の3拍子揃った良質な檜が採れたこともあり、三宝製造が盛んに行われてきました。この地で受け継がれてきたこの技術は、2016年に日本遺産にも認定されました。

しかし2017年に6代目の父・良浩さんから跡を継いだ吉谷さんは、「需要が先細りしている三宝だけを作っていては、あと30年50年と会社を続けていくことはできない」と思ったそうです。そこで、2019年に新しい木材加工機を導入し、三宝以外の物も製造できる体制を整えました。

そうして生まれた商品の1つが「ボックスシリーズ」。吉野檜の1枚板に機械で溝を刻み、曲げて多角形を形作り、底板を取り付けた蓋つき多目的ボックスです。四角形・五角形・六角形・八角形などの形状で販売されています。

八角形の八宝(オクタボックス)

また、曲げの技術と檜だけで作ったその名も「トン」というトングも誕生しました。大中小の3種類がありますが、バネを使用していないのでどのサイズもとても軽い力で開閉することができます。

調理や取り分けに使える大・中サイズとは違い、長さ10センチ程度の小サイズはスナック菓子を食べるためのトング。お菓子を食べながらプレイしてもゲーム機が汚れない、ゲーマー感涙の1本です!

手を汚さずスナック菓子が食べられる「トン木(小サイズ)」

そして今、一番注目されているのが高さ30センチほどの八角形をした「マルチボックス」。その名の通り、立てればゴミ箱、横にすれば飾り棚や収納になるマルチ用途ボックスです。デザイン性の高さと利便性が評価され、「日本の宝物グランプリ」という各地の隠れた逸品を選ぶ全国大会の「ものづくり・体験部門」でグランプリ賞を受賞しました。

重ねて使う事もできる八宝(マルチボックス)

実はこれらの商品、現在は開発から製造まで吉谷さんがたった一人で行っているそうです。「2020年はコロナ禍で外出自粛をしていたこともあり、新商品を色々と開発できました!」と笑う吉谷さん。これからは更なる商品開発や工程の機械化をして、製造スタッフも増やしていきたいのだとか。夢は膨らみます。

 

製造工程見学

吉谷さんが生み出した新商品の製造工程は、三宝製造と共通する部分が多くあります。取材にお伺いした今回は特別に製造工程の一部を見学させて頂きました。

 

木取り

まずは原料の吉野檜を必要な大きさにカットする「木取り」という作業。木の繊維(根から葉の方向)に沿って木材を縦に切っていきます。回転するノコギリに木材を押し当ててカットするのですが、切る面が広いため横切りよりも縦切りの方が難しいそうです。

 

水つけ

カットした木の板を水につけて“反り”を軽減したり、柔らかくして加工しやすくしたりするために行うのが「水つけ」です。切り倒された後も木は生きているため、木の板は温度や湿度によって反りかえってきます。反ったまま溝を刻むと深さが均一にならないため、上手く曲げることができないのだそうです。

板の状態を見て反りが少なければ、水つけの前に溝を刻むこともあります。この日水槽に入っていたのは、すでに溝を刻んだものでした。製造のピーク時には束ねられた板が水槽いっぱいに入っているのだそうです。

 

挽曲ひきま

複数の歯車をセットした機械で木の板に曲げるための溝を刻む工程を「挽曲ひきまげ」といいます。残念ながらこの工程は企業秘密のため撮影NGでしたが、「溝は深すぎると板が割れ、浅すぎると曲げられないのでどの商品も0.7ミリほど残して刻む」と教えていただきました。作る商品によって刻む溝の数は変わり、季節によって溝の深さも変わるのだそうです。

 

組立て

溝を刻み、水につけて柔らかくなった木の板を組み立てる作業は手作業で行います。板を折り曲げて形作るのは案外簡単なのですが、最後に接着剤をつけてフチを組み合わせるのは少し力が必要です。

その後、胴体と胴体より少し大きめに作られた底板を接着。はみ出した部分は機械を使って削り取り、胴体と底板の面が揃うように加工します。「最初から胴体部分と同じサイズの底板を作っておけば楽なのでは?」と思いますが、木の板は物によって微妙に反っていたり凹んでいたりするため、この方法でしかピッタリはまる底板は作れないのだそうです。

はみ出した底板を削って胴体部分と同じサイズに整えていく

いつもと同じ方法で水つけや挽曲げを行っても、必ず同じ仕上がりになるとは限らないのが木の良い所であり難しい所。たとえ熟練の職人でも木の性質を100%見抜くことはできないそうで、途中でダメになってしまうものもあるため注文数の1.2~1.3倍ぐらいの数の材料を揃えて製造するのだそうです。

 

これからの課題は販路開拓

「いい商品を作って評価を受けても、実際にお客様に使っていただかなければ知名度はなかなか上がりません。これからはPRや販路開拓にも力を入れないといけないと…」という吉谷さん。

現在は下市町のふるさと納税の返礼品として提供している他、奈良県橿原市にある奥大和移住定住交流センター「engawa」で販売してもらったり、企業とコラボして「吉野の魅力が詰まったセット商品」の開発をしたりしているそうです。

「吉野の魅力が詰まったセット商品」は吉野ビジターズビューローが運営するオンラインショップでも販売しているので、気になる方はぜひ覗いてみてくださいね!

オンラインショップはコチラ>>>

 

吉谷木工所

住所:奈良県吉野郡下市町新住41-10
TEL:0747-52-2447
営業時間:8:00~17:00
定休日:土・日・祝
HP:https://yoshitani-sanbou.com/

うぃーだ

うぃーだ

旅と酒ともふもふ動物を愛するアラサー女子。上場企業の広報部や地域情報誌の編集者を経て、「よしのーと」ライターに。

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