「楽しみながら吉野と関わることができないかな!!」
2019年5月、吉野を訪れて食や吉野杉の文化に触れ、修験道や吉野の歴史の深さを知った“なおちゃん”こと私・鈴木直哉は、そんな気持ちを心に抱いていました。
実際にそのチャンスが訪れたのは1年後。知人に誘われて参加した説明会で、全国各地から吉野町を盛り上げたい人を募る「吉野アンバサダー」プロジェクトの説明を聞いた私は「まさに自分がやりたいことだ!」と直感的に感じ、すぐ参加申込をしました。
このプロジェクトには、“吉野好き”という特徴を共有する個性豊かな「アンバサダー」が集まっています。約60人のアンバサダーが小グループに分かれ、それぞれが持つ特技を活かして写真や記事で吉野の魅力を発信したり、吉野の素材を使った新商品を開発したりしています。
私が参加したチームでは、吉野の食材を使ったグルメ開発を進めてきました。この記事では、我々3人のメンバーが吉野の食材に触れ、新しいグルメを開発するまでの軌跡をご紹介したいと思います。
吉野のお母さんに地域の食材と食文化を学ぶ!
みなさんは吉野のグルメと聞いて何を想像しますか?私の場合は吉野葛、柿の葉寿司、陀羅尼助(食材ではありませんね笑)でした。しかし、吉野には有名な食材・メニューだけでなく、全国的には知られていない土地の特産品が存在します。吉野の食材を使ったメニュー開発にあたり、グルメ開発チームがまず取り組んだのは、そういった特産品を知ることでした。
吉野アンバサダープロジェクトを主導する吉野ビジターズビューローの方から、チームメンバーの自宅に贈られてきたものは下記7品。箱を開けるとそこには、吉野葛や吉野杉の割箸といったイメージ通りのものや、米・卵といった「あまり吉野っぽくないな」と感じるものなどが詰められていました。
- 奈良県産ひのひかり(米)
- 吉野MICA卵
- 手作り玉こんにゃく
- 宮滝だし醤油「露とくとく」
- 吉野葛
- 原木干ししいたけ
- 美吉野醸造の地酒「花巴」
商品を受け取ったものの、これらの食材について詳しくなかった私たちグルメ開発チームメンバー。そこで、まずは吉野のお母さん的存在の表谷さんに吉野の食材や食文化についてオンラインで教えていただきました。
ひのひかり:
奈良県が推奨する品種の米です。小粒で潰れにくく、冷めても美味しいため寿司米として人気があります。
吉野MICA卵:
「MICA加工」という技術を加えた水を与えた親鳥から生まれた卵で、吉野では50年近く生産されています。黄味の色が濃くて味が濃厚なので卵かけご飯にぴったりです。
手作り玉こんにゃく:
職人が一切機械を使わず手ごねで作っています。火を通さず刺身こんにゃくとして食べることもできるそうです。
宮滝だし醤油「露とくとく」:
吉野町宮滝地区で120年続く老舗蔵で造られています。吉野の綺麗な水と蔵に住みつく「こうじ菌」がこの蔵の醤油や味噌の美味しさを造り出しています。
吉野葛:
古代から吉野は葛の自生地で、修験道の僧も食していたと伝わっています。葛粉は葛の根を砕き、「吉野ざらし」という伝統の製法を繰り返して得られるでんぷんを乾燥させたものです。
原木干ししいたけ:
スーパーでよく見かける、おがくずなどに菌を植え付けることで安価に大量生産できる菌床栽培のしいたけとは違い、クヌギやナラの木にしいたけ菌を植え付けて栽培するのが原木しいたけです。菌の植付けから収穫まで1〜2年もかかる原木しいたけですが、ゆっくりと成長することで水分を多く含み、肉厚で濃厚な香りになります。
美吉野醸造の地酒「花巴」:
美吉野醸造は、吉野の米、水、こうじ菌を使い、吉野杉の桶で貯蔵するなど、吉野の恵みの結晶のような日本酒を多く造っている酒蔵です。「花巴」はそんな酒蔵が醸す代表銘柄酒です。
一通り食材の説明が終わった後、講義の内容は吉野の食文化の話に移っていきました。
話題に上ったのは、吉野で「おかいさん」と呼ばれ親しまれている茶粥。パックに入れたほうじ茶で米を炊くだけで簡単に作れる上、消化がよく、水分・塩分がとれるため農家の間で広く食べられてきました。夏は冷やして食べても美味しいため以前は季節を問わずよく食卓に並んでいましたが、今では茶粥を食べる人が少なくなってしまったそうです。
健康的で古くから親しまれてきた食事が姿を消してしまうのはなぜでしょう…。不思議でなりません。
食材に会いに行ってきた!〜開発までの道のり〜
吉野の食材や長年親しまれてきた食文化を学んだグルメ開発チームのメンバーは、全員が「吉野の良さをより活かせるメニューを作りたい!」と考えるようになりました。そのためにも、私たちにはどうしてもしておきたいことがありました。
それは、「食をテーマに吉野という地域を体感すること」「生産の場を訪ね、製品の歴史やストーリーを知ること」「地域の方々から直接話を聞きくこと」の3点。この目標を達成すべく、私は他のチームメンバーと共に実際に吉野町を訪ね、吉野アンバサダープロジェクトに協力してくださっている事業者さんからお話を伺いました。
美吉野醸造株式会社
最初に訪れたのは、先日吉野の特産品の1つとして贈られてきた日本酒「花巴」を製造している美吉野醸造さん。こちらでは杜氏の橋本晃明さんにお話を伺い、蔵を見学させていただきました。
美吉野醸造が吉野川のほとりに創設されたのは1912年。しかし「花巴」という銘柄は明治時代から別の場所で造られており、美吉野醸造に受け継がれたのだそうです。
橋本さんは「造りたい味の酒」のために原料の米や酵母を選ぶのではなく、吉野の環境で栽培できる米や土地に根付いた菌を合わせて酒造りを行っています。私は吉野の風土、米、こうじ菌、樽などを見て、「土地に寄り添い、地域の中で循環する持続可能な酒造り」という橋本さんの信条を少し理解できた気がしました。
株式会社ハートフルコープよしのさん
次に訪れたハートフルコープよしのさんは、吉野の豊かな水資源を利用して、天然水の販売や農作物の栽培を行っています。レタスの水耕栽培の現場を見学させていただくと、光と水だけでレタスがいきいきと成長しているようでビックリ!しかし実際には、光の種類や日照時間、温度、肥料を溶かした水溶液の与え方など、試行錯誤して生育条件を調整しているのだそうです。
もちろん育て方の工夫もあるとは思いますが、綺麗な吉野の水がハートフルコープよしのさんのレタスの美味しさの秘訣なのではないでしょうか。
吉野の食材や食文化を学び、実際に生産の現場を見学したグルメ開発チームは、いよいよメニュー開発に乗り出しました。どんなものが出来上がったのかは、「吉野アンバサダーグルメ開発記録(後編)」にてお伝えします!
板西麻依子
管理栄養士。奈良県の小学校で栄養教諭として勤めた後、独立。心と身体のすこやかな毎日のために、食育活動を行っています。
鈴木直哉&Aya
旅と芸術が好きななおちゃん。旅とパン・お菓子作りが好きなAyaで記事を書きました。娘と3人で暮らしています。Ayaは子どもが食べても安心な体に優しいメニューをつくって、カルマキッチン、アートイベントに参加しています。