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吉野アンバサダー

「薬膳から始まる癒しの旅」~4つのスポットをご紹介します~

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「吉野を舞台にした旅行ツアーを企画するなら、どんなプランにする?」

吉野を盛り上げるべく全国から集まった「吉野アンバサダープロジェクト」のメンバーは、このテーマのもとA~Cチームに分かれて様々な旅行プランを練ってきました。検討の結果、私たちCチームがたどり着いたのは「薬膳から始まる癒しの旅」というプラン。この記事では、プランに組み込みたい要素や吉野町内の観光スポットについてチームメンバー4人それぞれがご紹介していきます!

薬草や野菜を育てる吉野町の農家・南さん(紹介者:はらだ なおこ)

吉野アンバサダーとなり「吉野を舞台にしたツアーを企画する」となった時、私は当初から「ツアーでは健康的な食事を提供して、参加者が体の内側から癒される旅にしたいな」と考えていました。その後の話し合いでCチームとして企画するツアーテーマが「薬膳から始まる癒しの旅」に決まった途端、私の脳裏には吉野町の農家・南さんのお顔が浮かびました。

南さんは「大和当帰」や「ヨモギ」といった薬草の他、様々な野菜を育てている農家さん。今回私はツアーに組み込む食事の案を練るべく、南さんを訪ねて野菜の収穫体験をさせていただきました!

さっそく畑を訪ねると、そこでは思っていたよりもたくさんの野菜が育てられていました。その種類は、白菜や大根、ニンジン、ブロッコリー、ナス、唐辛子……と年間を通じて30種類程度。これほどたくさんの野菜があれば、薬膳鍋以外にも色々な薬膳メニューを考案できそうです!

「どんな薬膳料理を作ろうか」とワクワクしながら畑を見渡していた時、私はふと野菜の根本にかけられた木くずのようなものの存在が気になりました。野菜の保温のためかと思いきや、南さんによると「これはスギとヒノキを混ぜた“おがくず”で、虫よけのためにかけているんです」とのこと。

なるほど!消臭・防虫効果があるスギやヒノキは、野菜の栽培にも活かせるのか……!実際に農家さんを訪ねたからこそ知れる、面白い発見になりました。おがくずの理由を学んだところで、次に気になったのは野菜の味。おがくずをかけて育てると作物の味わいも変わるのでしょうか?いざ収穫です!

今回私が収穫させていただいたのは、おがくずをかけて育てたカブ。普段よく目にする白や赤の丸いものとは違い、奈良県の在来種である「飛鳥あかね」という赤く細長いカブでした。

奈良では浅漬けや酢漬けにして食べることが多いという「飛鳥あかね」ですが、自宅に戻った私は味噌ベースの薬膳鍋に入れて食べてみました。普通のカブは煮るとシャキシャキ感が損なわれて水っぽくなりがちですが、「飛鳥あかね」は煮込んでもカブの味をしっかり感じることができ、薬膳鍋にとても合いました。

ちなみに、南さんは普通のカブも栽培されています。「ぜひ食べ比べてみてください」といただいた小カブは、南さんの奥様いちおしの、オリーブオイルと塩・コショウで炒める方法でいただきました。素材そのものの美味しさが楽しめ、シンプルなのにご飯が進む味に仕上がったので、ぜひツアーでの食事にも組み込みたいと思っています。

現在考案中の薬膳料理は、吉野町のどこかの飲食店に協力してもらって提供するのか、ゲストハウスや貸しスペースで「薬膳料理ワークショップ」のようなものを開催して参加者自ら調理するのかは今のところ未定です。しかし、のどかな吉野町で体に優しい薬膳料理をゆっくり味わっていただけるようなツアーを実現できるよう企画していくので、どうぞご期待ください!

「賞味期限10分間」至極の味覚を満喫できる中井春風堂(紹介者:水田 壮彦)

吉野の名産品である吉野葛。厳冬の時期に吉野地方に自生する葛の根を砕いて、吉野川の清流を使った 「吉野晒よしのさらし」という吉野地方独自の水晒し製法で精製された、滋養分に富む吉野の伝統的な食材です。葛の根のデンプンだけを使ったものは「吉野本葛」、葛の根のデンプンが50%以上含まれ、残りはサツマイモなどのデンプンを混ぜたものは「吉野葛」と呼ばれています。

「吉野葛」といえば、谷崎潤一郎の代表的な作品のタイトルにもなっています。小説は旅を続ける作家の「私」と、同行した友人の「津村」が吉野の神秘的な風景に惹きつけられるように、互いに亡き母への思いを募らせていくといった内容で、吉野に伝わる伝説や伝統的な食事が登場して、吉野が育んできた歴史と文化の奥深さを感じることができる作品です。

さて、そんな吉野の伝統食である吉野本葛を使った葛餅と葛切りを楽しめるのが、吉野町吉野山にある中井春風堂。店内メニューは「本葛餅」と「本葛切り」の2種類のみ。吉野本葛の美味しさを味わってもらうために香りの強い他のメニューは提供しないというのも、この店のこだわりの1つです。

商品は注文を受けてから店主の中井さんがお客さんの目の前で作ってくださいます。「葛」という植物について、そして「吉野本葛」と「吉野葛」の違いについて写真付きのパネルを使って解説した後、実演調理開始です。

「本葛餅」と「本葛切り」の材料は葛の粉と水だけ。「本葛餅」は、一晩水になじませた葛の粉を鍋に入れて火を通し、全体の色が白から透明に変化して弾力が出てきたら鍋から出して切り分けて完成です。

一方「本葛切り」はまず水で溶いた葛の粉を型枠に流し込み、湯煎して固めた後、型枠ごとお湯に沈めます。火が通ったら冷水につけて一気に冷やし、白っぽかった葛がさっと透明に変わったら、水の中で型枠から外して切り分けて出来上がり。鍋から出すタイミングの見極めや葛を型枠から外す一瞬の早業に、長年培われた職人技を垣間見ることができます。

出来上がった「本葛餅」と「本葛切り」は、なんと「賞味期限10分間」。持ち帰りはできないので、店内に併設されているイートインのコーナーでいただきます。黒蜜やきな粉をつけて頬張ると、「本葛餅」と「本葛切り」 のもちもち感と絶妙にマッチして至極の味わいです。

中井春風堂は、「本葛餅」と「本葛切り」の味はさることながら、その食べ応えや店主の明快でわかりやすい説明を交えた実演の見応え、聞き応えも抜群。吉野では外すことができない立ち寄りスポットです。

お店の場所は世界遺産に登録されている修験道の総本山・金峯山寺から徒歩でわずか2分。ぜひこの場所を訪れて、吉野でしか食べることができない、吉野の自然が育んだ味覚をぜひ味わってみてださい。

独特の味わいを持つ吉野山と、そのシンボル金峯山寺(紹介者:鈴木直哉)

私は吉野を訪れた際、宿泊した翌日はほぼ必ず吉野山にある金峯山寺きんぷせんじで朝の勤行に参加しています。心を静め、勤行に耳を傾けるあの時間が、私の癒しや健康の源となっているように思います。そこでここからは、「自然との調和・神秘性」という観点から吉野山とそのシンボル・金峯山寺について鈴木がご紹介させていただきます。

吉野山には、他の地域にはない独特の味わいがあります。それは、この地に暮らしてきた人々が意図的に作り出したものなのか、長い間自然と歴史が調和してきた中で生まれたものなのか、あるいは他の理由によるものなのかもしれません。しかし私は、吉野山の独特の雰囲気は金峯山寺の存在が醸し出していると思っています。

金峯山寺といえば、金峰山上で蔵王権現を感得した役行者えんのぎょうじゃが蔵王権現を本尊として開いた日本独自の山岳仏教・修験道の総本山。修験道の修行を行う人々は、悟りを得るため日々吉野の山で修行を行っています。

様々な情報を知れば知るほど、金峯山寺や吉野山を訪れた際に感じる神秘性は深まっていきます。しかし、たとえそういった知識がまったくなくても、この地に足を踏み入れると神々しさを感じることができます。吉野について何も知らない頃の私自身もそうでした。この神々しさの理由は何なのでしょうか……。


それはやはり吉野の自然が生み出しているのでしょう。

私は早朝に吉野山を歩いていて、幻想的な光景に出くわしたことがあります。金峯山寺の横の歩道から眼下に連なる山並みを見ると、そこには雲海が広がっていました。雲が波打つような動きをしながら山を囲み、まるで雲中から大きな龍が現れるのではないかと期待したほど現実離れした光景でした。

日の登りきらない早朝は、吉野山独特の雰囲気をより感じることができます。皆さんも、吉野山に宿泊した際は早起きをして周辺散策をし、6時半からは金峯山寺で毎日行われる朝勤行に参加してみてください。念仏、大きな太鼓の音、法螺貝の音色が堂中に響きわたり、耳ではなく直接心に音が伝わるような感覚を覚えると思います。

勤行が終了した後には、ご住職による法話があります。その中でも印象的だったのは、コロナ禍の今だからこその祈りの内容。「私たちは毎日12時に疫病が治まるようにお祈りをしています。私たちだけでなく、宗派関係なく奈良全体の僧侶がそれぞれのお寺からお祈りをしています」というお言葉を聞いて、私はとても感動し金峯山寺のファンになりました。人々が不安定な気持ちで過ごしている時代ですが、金峯山寺には宗派や立場にこだわることなく、人類の平穏を願っている方々がいらっしゃいます。

吉野山の歴史と自然と神仏への祈り。それを体験すると、心に安らぎが訪れると私は思っています。だから、私はまた吉野山の金峯山寺に足を運ぶのです。

五感を研ぎ澄ましてくれる山歩き(紹介者:まつざきさいか)

吉野といえば、桜よりも「修験道の聖地」というイメージの強かった私にとって、現地を訪れた際にやってみたかったことは、朝の勤行と山歩きでした。

前置きしますが、私は特別信心深いわけではなく、パワースポット巡りにもあまり興味を持っていませんでした。だからこそ、特定の神様に教えや救いを求める宗教よりも、「山そのものが御神体である」と言い切ってしまう修験道の潔い考えにむしろロマンを感じてしまったような気がします。

「修験道には経典があるわけではないし、修行も何かを教わるというより山を歩いて自分の体や、感覚で感じる事がとても大事にされる」と教えてくれたのは、吉野山のゲストハウス「KAM INN」の女将として働きながら山伏として生きる片山文恵さんです。

彼女に案内してもらったのは、世界遺産「大峯奥駈道」の一部でもある大天井ヶ岳。大峯奥駈道は、修験道の開祖である役行者えんのぎょうじゃが開いたとされる修行の道で、昔からの修行場です。私は大峯奥駈道の入り口となる吉野山の奥千本から車で少し上がったポイントからスタートしたので、大天井ヶ岳までは片道1時間程度の登山となりました。

夏の準備を終えた7月の大天井ヶ岳は緑がみずみずしく、たくさんの生き物の息遣いが感じられます。この日の山歩きはもちろん修行ではありませんでしたが、少しだけ山伏の想いを想像しながら、五感全部を使って黙々と山を歩きます。土を踏み締める足元に目を凝らせば、小さな虫やまだ新しい鹿の糞、珍しいホコリダケというキノコなど、見ようとしなければ見落としてしまうような生き物の活動が無限に広がっています。

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木の表面には地衣類や粘菌、岩肌にはシダ植物。視線を少し上げれば逞しく根を張る木と大きな岩。小さな世界も大きな世界も、同じようにこんな風にできているんだなと思わせてくれる豊かな自然は、生命力そのものです。体温が上がって汗ばんでくる体、早くなるのを整えようとする呼吸、その瞬間に体に取り入れる空気の温度と森の匂い。前へ進める足のリズムと、ふかふかな土の感触。森の音。五感全部を「開く」ことをちょっと意識すると、入ってくる情報の多さに驚いてしまいます。

山は何かを目指すこともなければ誰かを蹴落とすこともないけれど、豊かであり、厳しい。そんな風にただ生まれて死ぬことを繰り返すということの物凄さを、山伏でなくても少しだけ感じられる吉野の山歩きは、とても豊かな時間でした。皆さんもぜひ吉野を訪れて、「説明を求めない山の潔さ」を体感してみてください。

【この記事を書いた人】

 

はらだ なおこ

大阪生まれ、大阪在住。旅人/クリエイター。海外の旅は30ヶ国以上。そこでしか味わえない映画体験と交流会『time.share』の代表。映画ライターでもあります。吉野は千本桜に感動。四季全て訪れてみたいと思っています。Instagram ID:makever https://note.com/harada_naoko

 

水田 壮彦(みずた たけひこ)

大分生まれ福岡育ち、東京在住。旅行会社勤務、担当は国内旅行とインバウンド。日本各地に残る歴史・文化遺産や民俗文化財などの良さを伝えて、受け継いでいきたいと願っています。奈良大学文学部文化財歴史学科卒業。日本考古学協会賛助会員。

 

鈴木 直哉

埼玉県川越市生まれ、さいたま市在住。旅人/アートナビゲーター 海外の旅は25ヶ国以上 旅をしながらその地域の芸術や食文化を知ることが好きです。
吉野の自然で癒され、歴史、文化、食を学び、地域の方々とのつながりをこれからも大切にしていきたいです。

 

まつざきさいか

仙台市生まれ、南仏育ちのイラストレーター/デザイナー。海外をうろうろした後、2019年に縁あって兵庫県丹波市へ移住。著書に絵本作品『なーんだ』『あまのいわと~らんぼうなとらとやさしいらいおん~』 がある(共にsaïcaの表記 でWAVE出版より発売)。

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奈良県吉野町を盛り上げるため、全国から集結した吉野ファンの集団が「吉野アンバサダー」です。約60人のメンバーそれぞれが独自の経験や特技を生かして商品開発やイベント企画などに取り組んでいます。

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