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仏様にお供えするご飯について~郷土料理「おみ」の話~

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奈良県生まれで奈良県在住歴40年以上の私ですが、御所市内のお寺の副住職と結婚し、現在はお寺に併設されている庫裏くりで暮らしております。ちなみに、明日香村にある母の実家も同じくお寺でした。そのお寺にも庫裏があって住職家族が暮らしており、私も小学生〜中学生までお世話になりました。

さて今回皆様にご紹介するのは、仏様にお供えしているお仏飯のお下がりの冷やご飯を使って、祖母が作ってくれた、郷土料理のお話です。

 

参拝者の素朴な疑問「お仏飯ぶっぱん、一体何合炊いてるの?」

日々の感謝の気持ちを込めてお仏壇にお供えする、白いご飯。宗派や地域により名称は異なりますが、よく「お仏飯ぶっぱん」と呼ばれています。自宅には仏壇が無いという方でも、実家やおじいちゃん、おばあちゃんのお宅で見かけたことがあるのではないでしょうか。

ご家庭のお仏壇であれば、「仏飯器ぶっぱんき」に盛ってお供えするご飯の量は多くてもおにぎり1つ分くらいだと思います。しかし、お寺の法要時にお供えするものはかなりのボリュームです。仏飯器が大きければ大きいほど良い、量が多ければ多いほど良いというわけではありませんが、私のお寺にある仏飯器は最大で1合サイズ。法要時には合計で、およそ5合分のお仏飯をお供えします。

御本尊のすぐ手前にある金色の器に盛られた特大のお仏飯は参拝者の目によく留まるようで、「お仏飯、一体何合炊いているの?下げた後どうしているの?食べ切れるの??」と、よく聞かれます。お仏飯は、下げた後なんらかの形でいただくようにしています。私の家族3人に対して毎日5合分ものお仏飯があるのかと思えば、確かに下げた後どうするのか皆様が気になるのもうなずけます。

私のお寺では、法要以外の日々のお仏飯には小さいサイズの仏飯器を使用します。それでもお供えする場所が多いので、合計すると毎回1合くらいの量になります。下げた後はラップで1食分ずつ包んで冷凍し、食べる際に解凍して頂いています。

 

お仏飯のお下がりのご飯は、お線香の香りつき

30年前、小学生の頃お世話になっていた母の実家のお寺では、朝にお供えしたお仏飯を祖母がお昼に頂いていました。食べきれなかった分は晩ご飯として出されたり、私たち子どものお昼ご飯になったりしました。

お下がりのお仏飯といえば、お線香でいぶされた香り付きのご飯。私はどうにもそれが苦手で、もったいない話ですが「普通のご飯がいい!」などと祖母に訴えておりました。

80代の親戚の話によると、その世代が子供の頃は太平洋戦争の戦中・戦後のため、白いご飯は滅多に食べられないものだったそう。白いご飯は仏様専用で、そのお下がりのお仏飯は兄弟喧嘩をして取り合いになったほどのご馳走だったといいます。寺とともに暮らす家族の人数も多かった時代のこと。今では核家族化が進み、お仏飯もだんだん小さくなっていっているような気もします…。

ちなみに、ご家庭のお仏飯も下げた後に頂くのが理想的ですが、香りや器の金属によるアレルギー、下げるタイミングがどうしても遅くなることによる衛生面のことなど、諸々気になる方は無理をする必要はありません。

 

身近な食材で祖母が作る、懐かしい夏の郷土料理「おみ」

この黄色い素朴な食べ物。お仏飯のお下がりの冷やご飯を使って祖母が当時作ってくれた懐かしい夏のスタミナ料理です。これはお仏飯のお下がりはもちろん、余ってしまった冷やご飯を使って作る味噌が入った雑炊のようなもの。熱を加えて濃いめの味付けをしているため、お仏飯独特のお線香の香りも軽減されます。

奈良県内とはいえ別の町から嫁いできた祖母はその料理の正式名称を知らなかったようですが、他の明日香村出身の方に聞くと、これは「み」もしくは丁寧に“お”を付けて「おみ」と呼ばれるこの辺りの郷土料理で昔から夏に家庭で食べられていたそうです。

その雑炊の具材ですが、ご飯だけでなくそうめんとかぼちゃが必ず入っています。あとは小芋(里芋)が入ることが基本で、代わりにナスやじゃがいもなど身近な夏の食材が使われることもあります。最後に味噌を加えますが、ベースとなるのは煮干しでとった出汁。出汁の種類はなんでもいいのですが、煮干しベースの出汁を使うのが祖母流でした。

 

「おみ」を作ってみよう

ここで、祖母直伝の我が家流「おみ」の作り方をご紹介します。

 

用意するもの(2人分)

材料を見ると少ないように感じるかもしれませんが、思ったよりたくさんできてしまうため、具材もご飯も、少しずつからチャレンジしてみて下さい。

  • 出汁用いりこ(煮干し)………20g 
    ※頭・はらわたを取り除いたものがおすすめ。出汁をとった後のいりこは煮込んでそのまま食べます。(もちろん取り出してもOK)
  • 水……… 4カップ(800cc)
  • かぼちゃ………200g(4分の1カットのものをさらに半分くらい)
  • じゃがいも………握り拳大のもの1個(小芋2〜3個でもよい)
  • ナス………(小を半分くらい)
    ※量が多すぎると全体の色が悪くなるので注意
  • 冷やご飯………1食分(150〜200g)
  • そうめん………1束
  • 味噌………80gくらい

 

作り方

  1. いりこ(煮干し)を4カップの水に2時間程浸け、出汁を取ります。いりこを取り出す場合、出汁用パックにあらかじめいりこを入れておくと便利です。
  2. かぼちゃは種を取り、じゃがいもは皮と芽を取って、ナスは皮を縦に何か所か残して剥き、それぞれ食べやすい大きさにカット。ナスは水につけてアクを抜きます。
  3. 1に、かぼちゃとじゃがいもを投入し、そのまま火(中火)にかけます。途中アクが出てきたら取り除きましょう。
  4. 沸騰したら、3にナスを投入。いりこだしを取り出す場合、3〜5分ほど沸騰させたら取り出しましょう。
  5. 冷やご飯を使う場合、野菜を茹でている間にご飯をレンジでチンして温めておきます。(この間に、耐熱ボウルなどに味噌を入れ、茹で汁を少し注いである程度溶かしておくと後々鍋で味噌を溶かす工程の時短に繋がります)
  6.  

  7. じゃがいもに火が通ったら、ご飯を投入。ご飯をざっくりほぐしたら、すぐそうめんを半分に折って投入します。
  8. かき混ぜつつ、そうめんが茹で上がる寸前(投入後1~2分)で味噌を溶き入れます。全体に味噌が行き渡るよう、急いでかき混ぜて火を止めます。
    ※塩分控えたい方は、別茹でしたそうめんを完成後に加えて下さい。そうめんが水分を含み過ぎるのを抑えることもできます。
  9. 丼茶碗に盛って出来上がり。そうめんがふやけてしまう前に頂きましょう。

ドロっとしているのが特徴の「おみ」。時間が経つと徐々に固まってくるので、出来立て熱々の状態で頂くのがベストです。お世辞にも「ものすごく美味しそう!」「“映え”る」とは言い難いですが、かぼちゃの甘みと、そうめんの塩加減、いりこのほろ苦さがやみつきになる、今では夏に1度は必ず食べたくなる味です。

 

奈良以外にもあった「おみ」

「おみ」という名を教えてくれた明日香村の知人は60代の方。その方が「母がよく作ってくれたのよ、懐かしい」とおっしゃるくらい「おみ」が頻繁に食べられていたのは過去の話です。今では同じ地域内でも、知らない人が多いのではないでしょうか。

ところが実は東大阪や徳島県の郷土料理にも「おみ」もしくは「おみい」、「おみいさん」なるものが存在しており、いずれも味噌が入った雑炊です(そうめんが入っていない場合も多いようですが)。祝い事や行事に出されたり仏壇や神棚にお供えされたり、郷土料理としての地位を築いているそれらに対し、私の知っている奈良の「おみ」は、夏の時期の家庭料理。懐かしいおばあちゃんの味です。

こういった郷土料理は飲食店で出されることもメディアで取り上げられることも少ないため、時代の流れとともに、いつしか消えていくのかもしれませんね。

MAYO

MAYO

生まれも育ちも奈良の主婦(実は寺に在住)が、何度でも来たくなる、長居したくなるような奈良のホッとできるスポットを探し求めて、基本一人(ぼっち?)の、頑張らない、盛り込まない、無理しない、ぼちぼち歩む散歩、旅をします。

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