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民俗

<連載>吉野移住者の学びのコラム 第二回:山伏の世界〜山伏さんと手を合わす

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教えてくれた人:山伏/片山文恵さん

山伏って??

私は知らなかったのです。
神道、仏教、キリスト教等の宗教のくくりの中に「修験道」があることを。吉野山に登ったら誰もが訪れるであろう、かの有名な金峯山寺は修験道の総本山だということを。

奈良に移住して半年、今まで知り合うことのなかったお寺の住職さんや、神社の宮司さんと知り合う機会が増えました。移住する前には全く関わることのなかった人たちです。そして吉野にきて初めて出逢った「山伏」と呼ばれる人たち。

山伏とは、修験道の行者さんのことで、修験者とも言われています。地元の方には見慣れたスタイルでしょうが、関東出身の私にとっては相当変わった姿をしていらっしゃいます。

頭に何か小さな帽子?のようなものをかぶり、腰に獣の毛皮を巻き、法螺貝を吹いていたり。山で過酷な修行をしている。でも普段は私たちと同じように生活している”らしい”。
今回はそんな”らしい”という曖昧な知識を確実なものにするべく、ゲストハウスの女将でもあり山伏の片山文恵さんに山伏の世界を教えていただきました。

THE 山伏スタイル illust:片山文恵

頭襟(ときん)

宇宙そのものと言われている大日如来の宝冠を表し、大日如来と共にあるという意味合いもある。山中で石や落枝から頭を守る役割もする。

引敷(ひっしき)

獣の毛皮でできていて、神仏を載せている動物を模している。修験者は自然全てを神の化身として崇めているので、お守り的な要素もある。岩角等に座る時の座布団の役割もする。水も染みない優れもの。

法螺貝(ほらがい):

笛として使う。山神に入山を知らせるためや、場の邪気を払う魔除けの役割もある。

法螺を吹く片山さん。左奥に見えるのは金峯山寺

 
片山さんは元理系女子。
昔テコンドーで日本一になっていたり、妖怪について異常に詳しかったり、ゲストハウスの女将でもある…と、少し挙げるだけで興味深い要素いっぱいの「山伏」です。

3年前に得度し修験道の門を叩きました。得度とは、山伏になるための誓いの儀式のようなもので、これから山伏として修行を始めるスタートの儀式です。もう少し私達に馴染みのある例えをすると、「結婚」のような感じかもしれません。本当にこれから二人で人生を歩んでいくのかと自問し、決意し、誓い、結婚します。でもそれはゴールではなくスタート。

ここから本当の修行の日々が始まります。修験道の教えは全て特定の師弟間での口承で伝えられます。「何かを始める時に一番重要なのは、良い師匠と出会うこと」と聞いたことがありますが、修験道でそれは最たるもの。師弟関係を結ぶと、それは親子よりも夫婦よりも深い結びつきになることを意味します。結婚して一生の愛を誓ったとしても、嫌になれば離婚できますが、師弟関係は基本的に一生続きます。それは今世だけではなく来世までも続くと言われているので、輪廻転生をするとするならば、既に前世からも繋がっていることを意味しています。

基本的に師弟関係において「師匠の言うことは絶対!」です。極端な言い方をすれば「師匠がYES!といえば(例え本当はNOだとしても)YES!」と言うこと。世界平和を志すもの同士、そんな理不尽なことはないとは言え、なかなかハードな結びつきです。

でも逆に考えれば、それだけの覚悟を持ってお互いに信頼関係を結び、家族、夫婦以上に相手に責任を持ってお互いに面倒を見たり、見られたり、教えたり学んだりするわけです。大きな愛情と尊敬なしでは結べません。なので「修験の道へ入るにあたり最も難しいことは良き師匠と出逢う事」だと片山さんは言います。

唯一無二の師匠と出逢い、覚悟を持って師弟関係を結び、得度をし、一生をかけた修行が始まります。そして毎日自分以外の人の幸せのために祈ります。それを聞いただけで、一般人の私には山伏の皆さんが尊く感じてなりません。

 

修験道とはどんな宗教?

修験道とは、日本の古くから信仰されている自然や山を崇拝する山岳信仰をベースに、仏教、神道、道教などが混ざり合い、独自の発展を遂げた日本オリジナルの思想で、どんな人でもどんな宗派でもウエルカム!のなんとも日本人らしい宗教です。「何に向かって手を合わせるかよりも、手を合わせる行為、想いこそが尊いのです。だからどんな方でもどんな宗派でも受け入れます。」と教えてくれました。

キリスト教ではイエス様、仏教ではそれぞれのお寺にご縁のある仏様が祀られていますが、修験道では「金剛蔵王大権現」様をお祀りしているのが特徴です。通称、権現様、蔵王さん等と呼ばれていて、青くてちょっと怖そうなお顔。右手には煩悩を打ち破るための法具・三鈷杵さんこしょを振り上げ、左手は腰の辺りで印を結び、右足を高く上げた躍動的なポーズをしています。この特徴的なポーズは出現した時の様子を表しているそうです。

仏教が広まっていた今から1300年前の荒れ果てた世。今のままでは世の中良くならない!と立ち上がった賢い若者(修験道の開祖となった役小角えんのおづの)が、「どうかこの世を良くしてください」と祈っていたそうです。

すると、釈迦如来、千手観音、弥勒菩薩が順に現れました。しかし若者は「こんな優しいお姿ではこの世は救えません。この乱れた世にはもっと厳つい方が必要です!」と再度お願いし、そこで現れたのが権現様だといわれています。

ちなみに「権」とは、仮の姿という意味があるそうで、実は先に現れた三体の仏様が姿を変えて現れたと言われています。
権現様は、仮の姿。ということは、他の仏様にも、山にも、川にも、目の前の人にも、様々なものに姿を変えいらっしゃる。そういった思いがあるので、山伏たちは様々なものに手を合わせるそうです。

 

山伏の生活って?

宿の女将をしながら山伏でもある片山さんのように、多くの山伏が「半僧半俗」で暮らしています。「半僧半俗」とは、僧でありながら一般の私たちと同じように生活をしたり、働いていること。これは開祖である役小角が在家信者であったことから、それにならっているためです。毎日普通の人と同じように働いて、修行もしているのです!

修行というと、過酷な山を登ったり、滝にうたれたりと想像しますが、そんな修行の他に(やっぱりそんな修行もあるそうです)、一生かけて続けていく大事な修行のひとつに「菩薩行」というものがあります。これは毎日の生活の中で”みんなが幸せになるように”考え、行動すること。多種多様な人々、想いが混在する世の中で、”みんなが幸せになるように”というのはとても大きな難題です。

この人にとってはいいことかもしれない、でもあの人にとってはどうなのだろう…と、考えれば考えるほど疑問が出てきそうですが、そんな難題をいつも自分に問いかけ、実行し、考え続けることこそが修行でもあるそうです。まずは意識をしてみること。意識をしなければ疑問も出ません。そして観察すること。周りも、自分自身の心の奥深くを観察し問い続けることが大事だと教えてくれました。

”みんなが幸せになるように”というのは、誰もが純粋に望んでいることだと思うのです。山伏でなくとも、この菩薩行はみんながすべき修行だなと感じました。山伏と同じように、いつも”みんなが幸せになるように”と一人一人が意識し行動できたら、世界はもっと優しくなります。

 

吉野の桜と修験道

吉野は桜の名所で有名ですが、この桜と修験道とも大きな関係があります。役小角は権現様が現れた時に、そのお姿を山桜の木に刻まれ祀られました。

それから桜は御神木とされ、崇めるだけでなく信仰の証として献木するようになったそうです。なので、桜の木は権現様のいる金峯山寺から眺めると、山いっぱいに見渡せるように植えられています。

あの吉野山を埋め尽くしているたくさんの桜の木の一本一本が、どれも祈りを込められ植えられたものだと思って眺めてみると、また違った景色として私の中に入ってきました。

 

手を合わせること。祈りとは

修験道の総本山、金峯山寺では毎朝6時半から修験者たちが祈りを捧げています。皆自分以外の誰かのために、毎日、毎日。本当にありがたく尊いなぁと、「山伏さんたちが、今日も幸せでありますように」と自然と祈っている自分がいました。

なるほど。こうやって優しい祈りは連鎖して、皆をあたためていくのだなぁ。

勤行が終わるとすっかり明るくなっていました

ちなみに、金峯山寺のお堂の柱は様々な吉野の自然木を素材のまま使っています。通常寺院の柱にはヒノキを使うのが一般的ですが、金峯山寺は、樫、桜、梨の木等と様々です。それは女人禁制で山に入れないけれど、山の中で祈りが捧げられるようにと、女性たちを思って山を模して建てたからと、一説では言われているそうです。

祈るというと無意識に手を合わせていましたが、実は正しい合掌の仕方というものがあるそうです。今回片山さんに教えていただきました。

①手を合わせて上に上げ、自然に胸の前まで降ろす。②手の先を少しだけ体の方に傾ける。③手と手を合わせた真ん中はぴたっとくっつけずに、何か大事なものをイメージする。修験道なら権現様。仏教なら仏様。特に信仰がなければ、ご先祖様や、太陽や地球でもいいそうです。

ボブマーリーやチェゲバラでも、大好きな誰かとかでも、きっといいはずです。手を合わせた真ん中に「イメージすること」が大事ですと教えてくれました。

 

ディープに吉野山を堪能するならば…

「仏教用語ではなく、誰にでもわかる言葉で伝えることを心がけている。修験道の世界を知らなかった時の私に、今の私が説明するように。」と言う片山さんの、自分の体験や具体例を交えた説明は、無知な私にも本当にわかりやすくそして面白おかしく興味深いものでした。ただ変わった格好、なのではなく、全部に意味があった山伏スタイルの理由も知れて、ますます山伏への興味も深まり吉野が面白くなりました。

知識豊富な片山さんが女将をしているゲストハウス「KAM INN」には、山伏をはじめマニアックな本やグッズがたくさん!吉野をディープに堪能したい方はぜひKAM INNに宿泊をしてみることをお勧めします!もちろん金峯山寺の朝の勤行もセットで体験してみてくださいね。

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ゲストハウス KAM INN

住所:奈良県吉野郡吉野町吉野山2352
TEL:0746-39-9169
ホームページ:http://taikoban-yoshino.com/kaminn.html

片山文恵さんプロフィール

片山さん

片山文恵さん

大学院までは有機材料化学と技術経営を学ぶ。2012年、会社員として奈良に住みはじめ、この地に生きるいにしえの文化に魅せられ、それを伝えてゆく場としての宿が奈良には必要だと確信。2017年に吉野に移住し、ゲストハウスKAM INNの女将をはじめる。2018年に得度し、半分女将、半分修験行者として生きる。

ナツマヤ

ナツマヤ

イラストレーター・デザイナー。ときどき、かき氷屋。2019年春、2匹の猫と共に吉野に移住。偶然や必然におきたできごとのメッセージに耳をかたむけながらいちにち いちにちをていねいに過ごしたいと思っています。

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