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歴史解説

吉野の「原点」のお寺で出会う美仏のほほえみ

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私は、成立1,300年を迎える『日本書紀』(以下、『書紀』)が気になっています。

古代史ファンの注目も、おのずと『書紀』のふるさとである奈良県に集まっていて、『書紀』とは、奈良時代の養老4年(720)、神話の時代から持統天皇の時代まで、日本の歴史が漢文体でまとめられた、本格的な歴史書です。

2020年は、その編さんから1,300年目に当たります。

吉野には、『書紀』に登場する唯一のお寺があります。「吉野寺(よしのでら)」です。
それはどこにあったのか。『書紀』は多くを語りませんが、「吉野寺」の法灯を受け継いでいるのが、大淀町比曽にある世尊寺です。江戸時代の寛延4年(1751)、曹洞宗(禅宗)の高僧・雲門即道(うんもんそくどう)が再興した寺院です。

まずは、南側の山門からお参りしましょう。

 

世尊寺山門

世尊寺山門

山門には、名工・左甚五郎の作といわれるお猿さんの像が、こちらを見てうずくまっています。山門をくぐって境内に入ると、静かな境内に小鳥のさえずり。春には満開の桜と、珍しいハナノキや色とりどりの花々が出迎えてくれます。

 

世尊寺境内のハナノキ

世尊寺境内のハナノキ

5月下旬には、奥吉野の高山植物・オオヤマレンゲの香りが境内をつつみます。秋は紅白のヒガンバナ。おおみそかになると、静かな比曽の野山に、除夜の鐘の音が響きわたります。

この比曽というエリア。1,300年前には「吉野」とよばれていました。つまり、飛鳥時代の吉野エリアの原点が、ここ比曽にあって、そこにできたから吉野寺、というわけです。北へひと山越えれば飛鳥。この立地条件も吉野寺の重要性を物語っています。飛鳥時代以降の吉野寺は、地名から「比曽寺(ひそでら)」と呼ばれて隆盛をほこりました。その後、江戸時代に荒れ寺となっていたのを再興したのが、いまの世尊寺です。

さて、このお寺が有名?なのは、3つの「最古」があるからです。まず一つ目。吉野で一番古い寺跡に建っていること。境内の地中には、飛鳥時代にさかのぼる7世紀の古い瓦が埋まっていて、ときおりそんな歴史が顔をのぞかせます。

二つ目は、世尊寺の本尊の話。『書紀』には、6世紀の欽明天皇の時代、大阪の茅渟(ちぬ)の海に浮かんでいた「光を放つ樟(くすのき)」を利用して仏像が作られ、吉野寺にあるのがそれだ、と書いてあります。つまり、日本で最初に作られた仏像「放光仏」が、世尊寺の本尊、というわけです。すこし笑みをうかべているので、「吉野路の微笑仏」とも呼ばれています。そんなに古い仏像だったら、国宝クラスじゃない?と思ってしまいますが、最近行われた調査で、江戸時代の元禄13年(1700)に、新しいヒノキ材で「再興」された仏像だとわかりました。

 

世尊寺本尊(放光仏・阿弥陀如来坐像)

世尊寺本尊(放光仏・阿弥陀如来坐像)

ただし、お顔の部分から首元にかけて、ふるい広葉樹の材を再利用していることも判明。「この古材はいつのもの?」という新たな謎が出てきました。
三つ目は、日本最古の香木(心地よい香りを持つ木材)の伝承です。『書紀』によると、推古天皇の時代、海の向こうから流れてきた、水に沈むくらい重い香木「沈水香(じんすいこう)」が、日本の淡路島に流れついたという話が伝わっています。『聖徳太子伝暦』には、その沈水香の不思議で魅力的な香りにピンときた聖徳太子が、香木で一尺一寸(約33cm)の観音を刻み、吉野の寺に安置したといいます。まさに、日本にはじめて流れ着いた香木が、観音像になったというわけです。

この「沈水香の観音」。残っていればとうぜん国宝ですが、残念ながら証拠は存在していません。寺伝によれば、本堂内にある高さ約2メートルの「十一面観音像」がそれだ、とも言われていますが、香木にしては大きすぎますね。とはいえ、これも奈良時代のもの。吉野では最古の木彫仏です(4つ目の「最古」ですね!)。

昭和12年(1937)に、前の本堂が焼失したときも、燃え盛る本堂から、比曽の勇敢な村人が背負って観音像を救い出したという逸話が残ります。この像は、江戸時代の寛文2年(1662)と元禄13年(1700)に修理されていましたが、近年も新たに修理がほどこされ、往年の美仏となってよみがえりました。

 

十一面観音像(奈良県指定文化財)

十一面観音像(奈良県指定文化財)

様々な伝承と不思議な香りにつつまれた古寺。ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。「どうぞ一服」と、本山一路住職が、笑顔でお出迎えしてくれます。ディープな吉野旅は、まず吉野の「原点」で、美仏のほほえみに出会うことからはじめてみませんか。

世尊寺

〒639-3128 吉野郡大淀町比曽762
TEL/FAX:0746-32-5976
入山料:100円(中門脇に入金箱があります)
    本堂拝観料 300円(寺務所にお声がけ下さい)
アクセス:近鉄吉野線六田駅もしくは同大和上市駅からタクシーが便利です(約5分)
     お車の場合、隣接の駐車場をご利用下さい(大型バスも可)。

 
関連動画は「YouTube>大淀町公式動画チャンネル」でも公開中。
大淀町公式動画チャンネル|YouTube

※十一面観音像は、2020年の1月15日(水)から3月8日(日)、東京国立博物館の特別展『出雲と大和』に、奈良県代表として出展されました。

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