奈良県吉野町と、移住定住促進事業を展開する株式会社SAGOJOがタッグを組んで始まった「よしのアンバサダー」プロジェクト。吉野地域を盛り上げるべく2020年5月に活動を開始し、複数のチームに分かれて商品開発やグルメ開発などのプロジェクトを進めています。
その中で、吉野ビジターズビューローが運営するWEBメディア「よしのーと!」に、何か面白いコンテンツを提供できないだろうか?というミッションを掲げて集まったのが「よしのーと活性化プロジェクト」A~Cチームのメンバーです。各チームでは「吉野を舞台にした旅行ツアーを企画するなら、どんなプランにする?」というテーマのもと、アイデア出しや現地視察を行い、構想を練っていきました。
参加者が「自らストーリーを作る」旅行ツアー
私たちAチームがツアー案を練る中で感じたことは、「吉野には沢山のストーリーが散りばめられている」ということ。表面的には一つ一つの観光名所でも、細部にスポットライトを当ててみると、それらがまるで“あみだくじ”のように無数に繋がっていることがわかりました。
「どうすればより多くの人に多様な魅力を有す吉野に対して興味を持ってもらえるだろうか?」と考えた私たちがたどり着いたのは、「吉野にまつわるストーリーを、参加者自らが選んで体験する」というツアー構想。同じスポットでも、訪れる人がどこに関心を持つか・どの角度から見るかによって、感じ方や見え方、味わい方は変わります。そこで私たちは吉野の魅力を参加者自らの視点で物語的に楽しむことができ、選択次第でストーリーが思いもよらない方向へと展開していくというツアーを企画するに至りました。
参加者が自ら旅行ツアーのストーリーを作るというコンセプトを実現するにあたって私たちが採用したのが、「お土産選択システム」です。
ツアー客が吉野町内の観光名所を訪れると、そこには2種類のお土産が用意されており、どちらか1つだけを選んで開封すると、そこには次のスポットに結びつくストーリーが書かれている。次の場所でも複数準備されているお土産の中から好きなものを選ぶと、また次のストーリーが展開していく……。最終的には、その参加者だけのオリジナルストーリーが完成するというシステムです。
自らお土産を選ぶ体験があることで、参加者は積極的にツアーに参加しているという感覚とワクワク感を味わうことができます。また、「もう一方のお土産を選択したらどうなるんだろう」という好奇心をくすぐられ、ついまたツアーに参加してしまう……そんなツアーを企画しました。
ツアーに組み込む内容を具体化するため、私たちは何度か実際に吉野を訪ねて各地の観光名所を視察して回りました。ここからは、現地での視察ツアーについてご紹介したいと思います。
吉野に根付く多様な歴史、貴方はどこを見るか?
今回、吉野を見つめる中で改めて私たちが強く感じたのは、歴史の階層性。吉野は神話の時代から古代中世、近世、近代以降に至るまで、日本史の表舞台として登場し続けます。
そこには、
- 天智天皇と天武天皇が争った「壬申の乱」や、南北朝争乱などの天皇史
- 日本独自の宗教・修験道の聖地として繁栄してきた信仰と文化
- 源義経の逃走劇を垣間見せる史跡
- 古代の万葉集から中世の歌人・西行、豊臣秀吉に至るまで、吉野が桜名所として有名になった背景
といった、各時代の劇的なエピソードが散りばめられています。1つのスポットでも複数の時代が絡んでいることも多く、前時代が後時代の伏線になっていることもしばしば。そのため今回のツアー企画には、その伏線を回収する楽しさも盛り込めることができれば、と考えています。
また、歴史的遺跡や事象の舞台となった場所に、代表的なお土産があることも吉野の大きな特徴です。例えば、歌人・西行が食べていたとされる「西行鍋」を提供するお宿があったり、山伏が編み出したと伝わる胃腸薬・陀羅尼助の専門店があったり、宮滝遺跡のすぐそばに蔵を構える宮滝醤油があったり、桜が有名な吉野山で桜羊羹が販売されていたり……といった具合です。
見方でストーリーが変わる!始まりの地「金峯山寺」
歴史的なテーマをもって繋がっていくストーリーとは別に、こんな方向にも派生するのか!?という驚きを感じられるのも、吉野の魅力です。その代表例といえるのが、吉野の顔となっている「金峯山寺」。
金峯山寺は、役行者が創立した修験道の根本道場という位置付けで、吉野の信仰文化や山伏といった事柄につながっています。その一方で、建築物として捉えれば、木材を供給した吉野山周辺の自然、そして現代まで受け継がれている林業へと目を向けることが可能です。
また、金峯山寺が建つ修験道の聖域とでもいうべき吉野山をクローズアップすると、和歌の世界にも浸れます。天武天皇や山部赤人、後醍醐天皇や西行など名だたる歌人が吉野で歌を詠んでおり、そのおかげもあって吉野=桜名所というイメージが定着しました。
よって“吉野の広がり”を垣間見せ、体験者の興味によって様々な吉野の旅へ誘える場所として相応しい「金峯山寺」を私たちのツアーのスタート地点として設定しました。
帰ってきたい場所「吉野」 個性豊かな人が醍醐味
吉野の魅力は、豊かな自然や歴史、伝統に裏付けられたものだけではありません。様々なバックグラウンドを持つ“個性に富んだ人”の存在が、吉野を盛り上げる原動力になっているのです。
観光で訪れた吉野で出会った地元の人たちに魅せられ、リピーターとなって通うようになり、いつしか吉野が人生の中でかけがえのない場所になっていく……。そんな経験をする人は少なからずいて、私たちAチームにも「気付けば熱心な吉野ファンになっていた」というメンバーが2人もいます。
だからこそ今回の企画では、吉野にいる魅力的な人たち・現地の人たちとの交流に重点を置き、一度限りの体験では終わらない、吉野にどっぷりとハマる契機となるような体験ができるツアー行程としました。
「吉野には会いに行きたい人がいる、帰りたい場所がある」と思えるような、“なぜか惹き寄せられる吉野”を感じていただきたいという私たちの思いがこのツアーには込められています。
吉野ならではの不思議な感覚を体験してほしい
最後に述べておきたいことは、参加者の皆さんには吉野での旅を通じて、吉野ならではの空気感を味わってほしいということ。これまで様々なドラマを生みだしながら、日本の歴史・信仰形成において欠かせない役割を担ってきた「吉野」には、言葉で表現できない独特な空気が漂っています。
それを私が一番感じたのは、「高木山展望台」を訪れた時です。北西には大阪や奈良の都市を見渡し、一方南東には、近畿の屋根と呼ばれる大峰山脈と世界遺産・大峯奥駈道が臨めます。
まさに俗世と神仙の世界をつなぐ門と言え、春にはこの世の風景とは思えないほど美しいピンク色に包まれるこの場所は、きっと神への崇敬にも似た、憧憬の対象であったはず。そう想起せざるを得ません。
十人十色の吉野は、様々なストーリーが交差する場所
「どうしたら吉野の魅力を満喫してもらえるだろう?」という観点から始まった、よしのアンバサダー活動。その中で浮き彫りになったのは、吉野には本当にたくさんのストーリーが散りばめられているということ。それは歴史、自然、信仰、産業、食、人など実に様々です。
今回、私たちが企画しているのは、そんな吉野が持つ多様な魅力を、参加者自ら紡いでいき、一つのストーリーとして完成させていく“オリジナルの旅”。吉野での旅を通じて吉野の魅力を知り、一人でも多くのリピーターが増えてくれると良いな、という思いを込めて、引き続き企画をブラッシュアップしていきたいと思います。ご期待ください!
土庄雄平
1993年生まれ、愛知県豊田市出身。同志社大学文学部文化史学科・英文学科卒。サラリーマンの傍、自転車旅&登山スタイルで、日本各地を駆け巡るトラベルライター。 春は桜を愛でながらサイクリング、夏は冷涼な北日本へ自転車で大冒険、秋は秘境の紅葉を求めて登り、冬は輝く樹氷と白銀の世界に魅了される。そんな自然の中へ身を投じる旅がルーティーン。