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修験道

食と文化と伝統と ~吉野山 櫻本坊・巽 伯舟さん~

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伯舟さんとの出会い

「今時、こんなにも透明感のある美しい女性がいらっしゃるとは……。」
それが、初めて櫻本坊の巽伯舟(たつみ はくしゅう)さんにお会いした時、私が抱いた第一印象でした。

私が伯舟さんと出会ったのは、食と健康の分野で有名な「やまと薬膳」主催の「源氏物語」の朗読会に参加した時の事でした。朗読をする伯舟さんの上品な着物姿が印象的で、あっという間に彼女は私の憧れの人となったのです。その美しさと上品さの理由が知りたくて、ご本人にインタビューさせていただきました。

プロフィール

巽 伯舟さん

櫻本坊の司教であり書禅家。古代日本で使用されていたという説がある「神代文字かみよもじ」も書かれるそうです。参拝や自分を見つめ直す為の修行に来られた方に寄り添い、一緒に精進されています。

 

インタビュー

食へのこだわりについて

記者:食に関心を持ったきっかけは?

伯舟さん:
若い頃、顔にたくさん湿疹ができて不調が続き、心も暗くなってしまった時期がありました。そんな時にヨガ・瞑想・食養に出会い、それらを3年間実践し〈心身一如〉を実感したことで食に対する興味がわきました。

記者:食と健康について、どのように考えていますか?

伯舟さん:
食を整えることで、身体だけではなく心も平和になることを自分自身実感しました。食事は身体と心を育てていくものだと確信しています。

人はそれぞれ〈徳性〉という、目には見えないけれど、他人に良い影響を与えるものを持っています。別の言い方をすると、徳性は魂の力。少し意識することで中庸が保たれて、極端なことに走らず正しくより良い選択ができます。徳性をいつもより意識することで、自分の周りにいる人に優しくする気持ちが自然に芽生えてくるものです。〈心身一如〉には食が大切です。

記者:どのような想いで食に取り組んできましたか?

伯舟さん:
櫻本坊は1,300年ほど前に天武天皇が建立した神仏習合の修験道場で、皆さん色々な想いで修行に来られます。修行は大別すると難易度が4レベル(コード1~4)あり、ほとんどの方は比較的容易なコード3か4に参加されます。

コード3と4では修行のメニューが違うため食事内容も違ってきますが、提供する食事の食材は、玄米、季節のお野菜、山野草、天然醸造の調味料です。玄米麹のひしお・米飴・甘酒は手作りしており、お水は浄水器を通し、塩はミネラルたっぷりの「ぬちまーす」を使用しています。化学肥料を使わず無農薬で育てた季節のお野菜は、健康で生命力に溢れて力強さがあります。食が身体に与えるエネルギーや参加者の体調・目的に合わせて、こうした安全な食材を提供させていただいています。

櫻本坊で提供される、人に寄り添う食事

記者:無農薬・無化学肥料で育った自然環境や身体に負担のない食材を使い、手間暇かけて粗食で小食なものを作ることで、伯舟さんは修行参加者の方々に寄り添われているんですね。

伯舟さん:
五感をリセットして自分軸を整えるために、私は玄米などを使い心と身体を整えるための食事を作ります。しかし修行をしていると命と向き合う機会ができて、参加者自ら安全なものを食べたくなってくるのです。皆さん、忘れていた本来の自分に気付くのでしょう。

記者:天武天皇時代の食事も、一部手作りされているそうですね。

伯舟さん:
そうです。お供え物で当時の人が使っていた食材がわかって、昔の人はこんなのを食べていたのだなぁと感じることもありますね。

記者:神様仏様のために手間暇かけてお供え物を作ることは、同時に日本の伝統文化を継承することにも繋がっているんですね。

櫻本坊と桜の関係について

記者:櫻本坊と桜の関わりについて教えてください。

伯舟さん:
吉野と深い関わりがある天武天皇は、神仏にも陰陽道にも精通されていた視野の広い方だったと言われています。また、修験道の開祖である役行者様とその高弟子・角乗は吉野で修行をしていました。歴史上の有名人たちは同じ時代を生きていたのです。

ある日、皇子時代の天武天皇は吉野離宮で満開の桜の夢を見ました。その際、彼は角乗に夢判断をしてもらっており、翌年には夢判断のとおり天皇になることができました。天武天皇は夢で見た桜の樹のもとにお寺を建てて櫻本坊と名付け、角乗が櫻本坊の初代の住職となったと言われています。実際、櫻本坊の境内には「夢見の桜」といわれる1本のしだれ桜が今も存在しています。

櫻本坊境内に存在する「夢見の桜」

記者:これが天武天皇の夢に出てきた桜なのかもしれないんですね。

伯舟さん:
他にも、役行者様が修行後に仏様を桜の樹に刻んだことから桜が祈り証・ご神木となり、人々がご神木を植えたことで、山全体が桜でいっぱいになったという話もありますね。

 

インタビューを終えて

櫻本坊さんは、こうした吉野山の自然崇拝の精神、歴史、文化、伝統、食等を約1300年前から現在まで受け継いでこられました。伯舟さんもその歴史の中の一人として、次世代に伝統を継承していかれるのでしょう。櫻本坊さんは、人が幸せに生きる為の気付きを得られる拠点のような場所だと感じました。

インタビューを通じて、初めて伯舟さんにお会いした際に感じた透明感のある美しさと、上品さの理由が分かったような気がします。きっと背景には、安全な食材で作った食事、徳性を意識した心の在り方、日本や世界の幸せ・平和について祈っておられる事、吉野山の歴史・伝統を継承する志などがあるのだと思います。

 

井光山五臺寺 大峯山護持院 櫻本坊

住所:奈良県吉野郡吉野町吉野山1269
TEL:0746-32-5011 (8時~17時)
拝観料:500円(特別ご開帳期間中は800円)
拝観時間:8:30~16:00
HP:https://sakuramotobou.or.jp/index.html

よしのーと編集部

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