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<連載>吉野移住者の学びのコラム 第一回:山守の世界~山守さんと吉野の森林を歩く~

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教えてくれた人:山守/中井章太さん

500年の歴史を持つ 吉野の山守

ここは山守の中井さんが管理する山、河瀬直美監督の『Vision』の舞台になった森です。吉野の人々は、古代より木と共に生きてきた人々。日本で初めて植林を始め、約500年の歴史があります。

今から500年前というと、日本史でいうところの室町時代。戦乱が続いた激動の時代から、吉野の人々は木を植え、山を守り、山と共存しながら生きてきました。

「山守」という仕事を、わたしは吉野に移住して初めて知りました。この職業は「吉野林業」独特の制度で、山の所有者に代わって、森林の維持管理を行う仕事です。中井さんは江戸時代から代々山守をしてきた7代目で、約3名分の所有者の山を管理しています。広さにすると200ヘクタール。東京ドームで例えると、約42個分の広さ。

「〇〇山は◯◯さんの山」という具合に山の所有者がハッキリ分かれているわけではなく、細かく分かれているのですが、その特に線を引いて区分けされている訳でもない山を、山守さんは代々伝え受け継いで管理しています。

山の時間の流れは壮大です。

人の時間の流れとはあまりにも違うので、山守の仕事は自分の代だけで何かを成し遂げるのはとても難しいことです。今だけの利益や目的を見ていてはだめで、大きな時間の流れの中の一部分を担い、先祖代々、そして未来へと受け継いで、繋いでいく仕事です。

昔は木の価値が高く、特に吉野の木は質が良かったので、たくさんの需要がありました。「子供が大学に入るから木を切るか」と言う話はよくあった話で、山を持つことは資産になりました。所有者達は安心して山を保持し、山守さんへも十分な報酬をすることが可能でした。みんなが無理をせずに経済が回っていたのです。

しかし時代とともに安価な外国産の木材が輸入できるようになり、戦後、木材の価値は1/5~1/10程度になってしまいました。せっかく育てても、育った頃には価値が低くなってしまった、と言うのが昨今の現状で、所有者が山守さんに山の維持管理を委託する価値がなくなって、山を放棄する所有者も出てきました。

山は一人のものではないので、誰かが見放したらそれは山全体に影響します。そんな風に管理されなくなり、見放された山が増えているのが今の問題の1つになっています。所有者の利益がないことで、山守さんへのお金も流れない。そのような悪循環が続いています。

「私たちの代で放棄してしまったら、山は繋がらない。未来の子供達に選択の余地を残すためにも、繋げていかなくてはならない」と、中井さんは言います。

手入れされた木々。どの山守が管理しているか印を残す。

手入れされた木々。どの山守が管理しているか印を残す

良い木材を育てるには「枝打ち」という作業が必要です。それは植林をして6~7年が経過した頃に、低位置で枝を打ち落とす作業です。

これにより、ふしの少ないまっすぐな吉野独特の質の良い木材を育てる事ができるのです。
逆に、適切な時期に枝打ちせずにそのまま育った木は価値がなくなり、未来へ負の影響を及ぼします。

枝打ちされなかった木々。

枝打ちされなかった木々

 

これからの山守

今までと同じような仕事の仕方では経済は回らない、山も守っていけないとなった今、中井さんの山守としての仕事は多岐に渡っています。

不要になったおがくずを酵素風呂として活用し、残った部分は発酵堆肥として循環させて使ったり、山の恵みや山との繋がりを実感してもらうための山歩きツアーを企画したり。桧の丸太を牡蠣の養殖に活用し、山と海を繋げる活動もしています。

山の問題を「点」で捉えるのではなく、大きな視野で循環する「円」で捉えることをコンセプトに、様々な切り口で山との関わり方を提案しています。

また中井さんは、「もし手入れができない山があるなら、自然の里山に戻していくことが必要だ」と言います。

“一度人が手を入れてしまったものは、手を入れ続けなければならない”と聞いたことがあります。自然なものはそこで循環し続けられるけれど、私たちは一度その循環を壊し、手を入れてしまったので「もう必要ないから手を放す」というわけにはいかないのです。責任を持って自然に戻していく手入れをしなければなりません。

政府もこの今の状況に危機感があり色々な制度を作ってはいますが、なかなかその制度を活用することが難しいことから、これからは、その様々な制度を活用することのできる知恵を持った人材が必要です。

所々に流れる水脈を見て、中井さんが「水脈は止めてはいけない」と教えてくれました。山のことを知らない者たちが自分の都合だけで工事をし、水脈を止めてしまうと、流れが滞ってどこかにしわ寄せがくる。

土砂崩れが起きて、そのすそを固めてみても、それはただの対処法で、原因を解決できていないので何度も土砂崩れを繰り返す。今、日本のあちこちで起こっている問題です。

人間だって同じ、排泄物、熱、ストレス、いずれも流れず滞ると大変です。薬を飲んで一時的に回復しても、原因を放っておけばまた再発します。人も山も同じ。流れを良くして留めないこと。山を歩き、色々な問題が同じ仕組みで起こっていることを感じました。

Visionの森でお弁当を食べながら、こんな話になりました。

「会社の会議もこんな風に森の中で、切り株に座りながら、まあるくなってやったら、また見えるものが違ってくるね。」

山の問題を都会の真ん中で話し合っていても感じ取れることは少ない。実際に山に入り、自分と山との関係を肌で感じ、そこで見えてくるものは違う景色かもしれない。「それぞれに寄り添い、現場で考える」中井さんが大切にしている想いです。

 

一人一人ができること

山守さんと山を歩き、たくさんの繋がりを感じました。自然と私たちは繋がっていること。山と街は繋がっていること。日本の山の問題はとても大きく、たくさんの課題が絡み合っていて、どこから解決していけばいいのか途方に暮れるほどです。

でも、私たちは繋がっている。それは私たち一人一人が山に影響を及ぼすということ。それならば、何もできないと嘆かずに、自分自身をまず整えてみよう。それは必ず山に響く。

まずは山を歩き、山を感じ、自分が循環の中の一部分を担っていることを自覚してみよう。私たちはそれぞれの時間の流れの中で繋がり、共に生きていることを感じてみることから始めてみよう。

そんな風に感じた山歩きでした。

 

吉野山守ツアー(不定期開催) 問い合わせ先

中神木材 中井章太
住所:〒639-3108 奈良県吉野郡吉野町西谷988-1
TEL:0746-39-9018
E-mail:[email protected]
ホームページ:http://www.purewoods.com/

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オリジナルのお弁当箱は、お持ち帰ることができます。

中井章太さんプロフィール

中井章太さん

中井章太さん

吉野の山守7代目
中神木材 代表
森林施業プランナー
吉野町長

山が原点。山のこと、木のことを吉野の山で伝えたい。

ナツマヤ

ナツマヤ

イラストレーター・デザイナー。ときどき、かき氷屋。2019年春、2匹の猫と共に吉野に移住。偶然や必然におきたできごとのメッセージに耳をかたむけながらいちにち いちにちをていねいに過ごしたいと思っています。

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