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奈良吉野のいにしえの味わい 日本酒『神然流 花巴』~後編~

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吉野という土地ならではの日本酒を生み出し続ける、美吉野醸造。前編では、「市販の酵母を添加しない」独自のポリシーに舵を切った経緯をお聞きしましたが、実はこれ、“日本酒造りの原点”に通じる純正な製法だったというのです。それはまるで、500年前にタイムスリップするかのような本物のものづくり。さあ、さらなる高みを目指して挑みつづけるストーリーを、お聞きしてみましょう。

リスクも手間暇も恐れず 昔ながらの酒造りを手本に

「日本酒の発祥地」といわれているのは、この奈良。はるか室町時代、しかもお寺にて、酒造りが行われていたというから、それはとても驚き。その菩提山正暦寺でのクラシックな酒造りを模倣した製法を“水酛みずもと”と呼び、美吉野醸造の『花巴』にも水酛の純米酒があります。

あらあ……こんなにも芳醇なお酒を、いにしえの僧侶たちが飲んでいらしただなんて。この純米、なんともふくよかで好きやわあ(お坊さんたち、たまらんかったやろうなあ~)。それにしても、室町時代に酒造りとは。その時代、いまのように温度管理のできるタンクもなければ、もちろん、できあいの優良酵母もないものね?

「酒造所に住みついていた蔵つき酵母が入りこんで、アルコール発酵していたんです。ちょうど、うちと同じやり方で。いまの時代、酵母を添加するのがあたりまえ、酒造りのベースになる酒母しゅぼが完成するまでの時間はせいぜい2週間です。でも、うちのように無添加なら40日、気温や水温によっては50日かかることもある。室町時代の職人も、忍耐でコツコツとやっていたんやと思いますねえ」

美吉野醸造でも、500年前の酒造りをルーツにした水酛は、昔ながらの吉野杉の木桶でゆっくり、じっくりと長い時間をかけて仕込んでいきます。木桶では、もちろん温度コントロールはできない。自然を信頼し、吉野の風土にゆだねながら、祈るように円熟を目指していく。そうして完成する『花巴』には、蔵人たちの信念と誇りが宿っているかのようで、気高い作品のように尊さすらこみ上げてきます。

つまり、酒造りにおいて「酵母無添加であること」とは、まるで時間をさかのぼるかのように原始的で、効率とは無縁のメソッド。”地酒”とは何のことか――? 近年になってそれが問われるようになってきて、合理的な大量生産に疑問を感じた醸造家たちが、ひとつ、ふたつ、その土地ならではのオリジナリティある酒造りを展開するようになってきた、とはいうけれど、まだまだすべての商品を、全ラインアップを酵母無添加で貫いている蔵なんて、「おそらく、日本ではうちだけやと思いますねえ」――。あえてニッチな路線を行こうというのでもない、たまたまです、ワンパターンにならへんし、このほうが造りたい酒が造りやすいだけなんですわって、肩ひじ張ることもない、どこまでも自然体な若き杜氏の橋本晃明さん。

そんな橋本さんが、「うーん、何かいい言い方があったらいいんですけどねえ」と模索中なのが、“酸”という言葉の持つネガティブさを覆す、ぴたりとくる味の表現。すっぱい、飲みにくい、とっつきにくい。橋本さんの造る『酸の豊かなお酒』とは、決してそういう悪いものじゃない。「旨みです、米の旨みを引き出すのは旺盛な酸。酸と旨みとが一緒になって、いろんな表情やら、おもしろいバランスやらが生まれるんです」

クセになるような日本酒
酸味があるのは旨みがあるから

山深く、雨も多い吉野とは、昔から“上質な酸”とともに暮らしてきた地域なのでした。たとえば魚でも、沿岸部のように乾かしてひものにする、というやり方とは違い、高温多湿な地域ならではの塩漬けや発酵という保存食文化が栄えた。そう、すっぱいからこそ、たまらなくうまい柿の葉寿司を思ったら、シュルっとよだれが出てくるように。酒造りにおいてもまた、たくましい菌が育って麹が力強くなるのは、この気候があってこそ。活発に発酵が進むと酸が出るのはあたりまえで、それこそが米の持ち味をぐいぐい引き出すというのだから、酸は決して悪者ではないというわけです。

実際に飲んでみる『花巴』には、イヤなすっぱさはどこにもない。確かに酸味はあるけれど、尖ったり、悪目立ちしたりするすっぱさじゃあない。もっと華やかで透明感があって、すっきり感につながる酸味……そう、味の要素が重なろうともケンカせず、絶妙にまとまるのは酸の力。酸があるからまろやかに調和して、味の全体像が決まるのだ。それが『花巴』、それがうまい理由といわれると、ストンと腑に落ちる。ツンとこない、フレーバーとしての酸味はむしろ爽快な感じで重すぎず、ああ、やっぱり柿の葉寿司が食べたくなる……どうしてもなってしまうのね。それは当然といえばそのとおり、どちらも発酵食品、一緒に味わえばマリアージュ。間違いなく相性はバツグンなのだから。

燗でも冷でも便利! 画期的な一合ボトルが登場

美吉野醸造の橋本晃明さんが、このたび神然流のために提案してくれたのが、『花巴』山廃純米 火入の180mlボトル。この手のひらサイズのボトルがすばらしく便利で、冷蔵庫にビールの缶とならべながらスッと入るのがすごくいい。大きな瓶が冷蔵庫を陣取ることもないから、今晩飲みたい分だけを数本、冷やしておこうかな~って、晩酌のチョイスが増えちゃいます。燗酒にするにも、なんと、わざわざ移し替える必要がない! しょっちゅう徳利をあふれさせ、こぼしてしまう私のようなラフなのん兵衛には、この一合ボトル、革命的な手軽さなのです。

造り手の橋本さんに、味のご説明を。『花巴』らしく味の要素が多くて、コクがある。酸のエッジがシャープでキレもよく、そうですねえ、天ぷらなんかとあいますよ、とのこと。一本ごとに持ち出せるから、バーベキューのおともに持って行く、なんてチョイスもよさそうです。意外にも、お肉との相性も悪くない。鴨肉とあわせてハマった、なんて人もいるそうですよ。なんせ、原材料はシンプルに、米と米こうじのみ。お米にあわない料理なんて、めったにないのですから。

比較的長く常温保存できる火入れの日本酒なので、一本ごとに違った時間寝かせてみたりして、自分好みの熟成を見つける、なんて選択肢も広がりそうな一合瓶です。それができるのも、好きなときに、好きな料理と、好きに飲んでほしいという造り手の橋本さんの、おおらかさが生きた日本酒であるからこそ。

吉野の風土に寄り添ったお酒、美吉野醸造の『花巴』一合ボトルなら、新しい日本酒の楽しみ方がますます広がっていきそうです。お酒の味がわかるあの人へ、季節のギフトにするのもいいよなあ、むしろ私が贈られたなら……うれしくて小躍りしちゃいます。こだわりの日本酒ができるまで、少しのウンチクと思い入れを添えながら……気取らない仲間と早く乾杯したいな!

⇒ 【前編はこちら】
奈良吉野のいにしえの味わい 日本酒『神然流 花巴』~前編~

山本 亜希

山本 亜希

1975年、京都市生まれ。京都外国語大学英米語学科卒業後、海外旅行やグルメ取材、インタビュー記事を中心に東京での執筆活動をへて、2011年から京都市在住。ソウルシンガー、英語講師としても活動。

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