古来より神聖な山として、万葉集にも歌われた
そのふもとには「あるもの」でとても有名なお店があります。毎年春になるとたくさんの人でにぎわうこのお店。さて、その「あるもの」とは一体なんでしょう?
そう、答えはランドセル。
今回は知る人ぞ知るランドセルの製造・販売会社、「鞄工房山本」をご紹介したいと思います。
ランドセルの予約は販売1年前から始まります。春はこのショールームが一番にぎわう季節。
来春に入学を控えた子ども連れの家族が、次々とランドセルの下見にやってきます。決して交通の便が良いとはいえないこの場所を多くの人が訪れる理由。
それは、なんといってもこのランドセルの「つくりの良さ」にあります。
鞄工房山本は1949年創業。その歩みの歴史は、そのまま日本の戦後の歴史でもありました。戦後、物資の少ない中で「手間を惜しまずに良いものをつくる」ことを大切にした先代。先代の教えを受け継ぎ「確かなものづくり」を守り続けた今の二代目工房主。
高い技術に裏打ちされ細部までこだわりぬかれた丁寧なつくりは次第に評判となり、今や鞄工房山本のランドセルは押しも押されぬ人気商品、多くの人の知るところとなったのです。
こちらは、女の子に一番人気の「ラフィーネ」。落ち着いた色使いとティアラのステッチが印象的です。上品さとかわいらしさの匙加減、絶妙ですね。良いつくりはわかったけれど、自分が背負うのはちょっと…。
そんな大人なあなたもご安心あれ。ショールームには鞄工房山本直営のセレクトショップ「香久山鞄店」も併設されています
鞄工房直々の仕入れ品というだけあって、どれも高品質でデザインの良いものばかり。
実際、子どものランドセル選びをしていたパパさんが、いつの間にか熱心にビジネスバッグの説明に聞き入っておられる姿も拝見しました。さらにここ「鞄工房山本」ではランドセルづくりの様子を間近に見せていただくことができます。
分業制が多い鞄業界にあって、ここでは今も一貫製造体制のランドセルづくりが行われています。場所はショールームから歩いて3分。敷地内に立つ樹齢400年のくすの木が目印です。
工房の中でひときわ目をひくのは大きく広げられた赤い革。牛革です。お分かりいただけますでしょうか?奥が頭、手前がお尻。左側が背中の部分です。背中の革は固くて丈夫、お腹の革は柔らかく伸び縮みしやすい性質があるのだそう。
ランドセルの開け閉めの時一番負荷のかかる「かぶせ」の部分には、背中側の固く丈夫な革を使います。上下もきちんと決まっているのだとか。
これは「型入れ」と呼ばれる作業。職人さんが、革の裏を入念に見ながら、小さな傷やヨレをチェックしていきます。素人目には、どこに傷があるのだか…。しかも裏側の小さな傷なんて、気にしなくていいように思うのですが…?
いえいえ、実はこの作業、ランドセルづくりの中で最も慎重さが必要とされる大切な行程なのです。もしここで傷を見落とせば後々大きな不具合につながるのだとか。良いランドセルをつくるため、職人の目と手でひとつひとつ確認していきます。
革の特性を熟知している職人だけができる大切な工程です。
これは、裁断の様子。モニターを見ながら裁断する場所を指定し、空気圧式カッターで裁断していきます。早い!きれい!ドイツ製のこの自動裁断機、日本に1台しかない最新式のものなのだそう。
機械を通してピーラーのように皮をうすーくうすーく仕上げていくのも大切な工程。割りと呼ばれるこの作業の後、さらに「漉き」で、必要な部分を0.05ミリ単位以下の薄さに調整していきます。
出ました「コバ塗り」!鞄工房山本のランドセルといえば「コバ塗り」といわれるほど特徴的で、こだわられている部分です。革の裁断面(コバ)を磨いて滑らかにした後、ニスを塗る、そしてまた磨く、塗るを繰り返し滑らかで美しいコバ面を作ります。これは、経験、技術、手間の三拍子が必要な職人技なのだそう。薄い革の断面に盛られたニスは均一で美しく、その鮮やかな色はランドセルのアクセントにもなって、とてもおしゃれです。
これは「キザミ」と呼ばれる技術。角の革を扇のように寄せていきます。こちらも手間と高度な技術を必要とするためランドセルの良しあしをみるひとつの基準といえるのだとか。
職人さんがひとつひとつ手作業で美しいひだを作っていらっしゃいました。こうして各工程で作られたパーツはボールペンの芯ほどもある太い針でしっかりと縫い合わされていきます。
一つの工程から一つの工程へ、リレーのバトンのように職人さんひとりひとりの思いがつながってランドセルができていくんですね。最後にこのバトンを受け取る子どもたちの笑顔が見えてくるようでした。
工房の職人さんたちの数は40人弱。その中には、もくもくと作業をされる二代目の姿もありました。鞄工房山本のランドセルづくりの原点は、二代目が、入学する長男のために持てる技術のすべてを注ぎ込んでつくった紺色のランドセルだったのだそう。その後も次男、長女のために改良を重ねて作られ続けたランドセル。使う人の笑顔を思いながらつくる喜びが、今なお鞄工房山本の「ものづくりの心」を支えているのだそうです。
近年、「鞄工房山本」では、ランドセル製造や仕入れ品販売のほかに、オリジナルの革製品の製造や販売にも力を入れています。
こちらはそのほんの一例。左からLファスナー小銭入れ(菜の花色)とコインポーチ(千歳緑×若葉色)。
使われている鹿革は、奈良県宇陀市で130年の歴史を誇るタンナー「藤岡勇吉本店」のもの。上品な色遣いとやわらかな肌触りが特徴です。ランドセルづくりで培われた職人の技術とブランド力がこれからどういう展開を見せるのか。今後がますます楽しみな「鞄工房山本」なのでした。
鞄工房山本(カバンコウボウヤマモト)
住所:〒634-0022 奈良県橿原市南浦町899
TEL:0744-20-1771
営業時間:10:00~17:30
工房見学:火・木・金・土(10:10~12:10、13:00~15:00、15:00~17:10)
定休日:水曜日(祝日除く)、年末年始
駐車場:あり
ホームページ:https://www.kabankobo.com/
※臨時休業日は、ホームページより随時お知らせ。
アクセス
レンタサイクルなら…
近鉄橿原神宮前東出口より15分
電車、バスなら…
近鉄大和八木駅から橿原市コミュニティバスで約25分「南浦町」下車 徒歩1分