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奈良が誇る柿の葉ずしの名店 「平宗」吉野本店 ~お食事編~

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旅に出る楽しみのひとつは、その土地ならではのものを食べること。

吉野に来て、吉野の味を楽しみたいと思うなら、お薦めしたいお店のひとつが、ここ「総本家平宗ひらそう 吉野本店」です。吉野川にかかる大きな橋、桜橋のたもとに建つ創業160年の老舗です。

奈良県民にこの「平宗」の名を問えば、「あぁ、柿の葉寿司のなぁ。」と返ってくるほどあまりにも柿の葉寿司で有名な平宗。奈良県内外、各所に店舗や販売所があり、お弁当や旅のお土産にと、そのお寿司を買い求める人も少なくありません。

柿の葉に包まれ、きちんと箱に並べられたお寿司は見た目も美しく、食べやすく、何よりおいしい。吉野地方で古くから食べられていたこの郷土料理を最初に商品化した店こそが、何を隠そうこの平宗なのです。

ですが、柿の葉寿司だけが平宗の全てではありません。ここ吉野本店は、柿の葉寿司はもちろんのこと、鮎料理をはじめとする吉野の郷土料理の数々が味わえるお店。座敷とテーブル、両方がしつらえられた店内は明るく落ち着いた雰囲気で、窓の向こうには悠々と流れる吉野川とレトロな大和上市の町並みが広がります。

お店自慢の品々は、どれもおいしそう。あれもこれも食べたい欲張りな気持ちを満足させてくれる「花吉野」(2,500円)のほか、「吉野川」(1620円)や「茶がゆ御膳」(1280円)のセットもあり、予算に合わせて選ぶことができます。もちろん一品料理からの注文もOK。

「花吉野」(2,500円)

まずは、手造り胡麻豆腐(420円)をいただきました。吉野は葛の名産地。材料にはその葛が使われているそうで、おはしで切ると、弾力のある手ごたえ。そして…。

「!」このおいしさをどう表現したらいいんでしょうか。もっちりしていながら、なめらかな舌触り。そして、口のなかいっぱいに広がっていく味の濃厚なこと!老舗の底力を前に一皿目にしてノックダウンです。

茶がゆ(470円)

こちらは茶がゆ(470円)。その歴史は古く、大仏建立の頃の記録にはすでに「茶粥」の二文字が見られます。奈良の特に南部地域では、今でも朝ごはんにこの茶粥を食べる風習が残っています。

行平鍋(ゆきひらなべ)に入れられた平宗の茶粥は、米の粘り気がなく、さらりとしています。お米の一粒一粒にしっかりと茶の色がついており、すすると粥の塩気とあられの香ばしさが懐かしく、地味だけど滋味あふれる味わい。使われている茶葉は、吉野郡大淀町にある南芳園のもの。創業200年の老舗の茶畑でとれる茶葉は、店内で出されるお茶にも使われており、くせのないまろやかな味わいです。

子持ち鮎の甘露煮(700円)は、鮎を焼いた後、料理長が3日間かけて炊き上げる自慢の一品。ほろりと骨までやわらかく、噛むとじっくり染み込んだ甘辛いタレと鮎の旨味が口の中にじゅわっと広がります。

鮎料理をもう一品。焼き鮎寿司(900円)です。酢飯の味に甘辛いタレのかかった鮎の身のほろ苦さ、焼き目の香ばしさが混じりあい、甘露煮とはまた違う鮎の旨味を堪能できます。

さすがは鮎料理を得意とする吉野本店。鮎が旬を迎える6月~8月末には、吉野名物として昭和天皇に御献上された歴史を持つ「献上鮎寿司」(900円)や、「すだち鮎寿司」(1000円)も登場。活造りなどの一品料理、鮎づくしの会席も楽しめるとあって、夏の訪れが待ち遠しくなります。

忘れてはならないのが定番の柿の葉寿司。海のない吉野では、熊野から行商人が運んでくるさばは貴重なご馳走でした。腐らないように浜塩でしめた鯖を薄く切り、ご飯と一緒に柿の葉でつつんだ後、箱詰めと重しをしてから、発酵させて食べたのが柿の葉寿司の由来だといいます。

柿の葉をひらくと、ふわりと漂う特有の香り。酢飯に使われているのは、奈良県産のヒノヒカリ。固すぎず、柔らかすぎず、ちょうどよい握り加減。お米の甘みと塩漬けされた魚の旨味、それに柿の葉の香りが混じりあいます。握りずしとはまた一味も二味も違う柿の葉寿司の風味は格別で、塩気と共に、鯖にはかすかな甘みが、鮭にはほんのりとした香ばしさが感じられました。

ずいぶんお腹がいっぱいになりましたが、別腹へ入れたいのが、食後の後の甘味です。

葛きりは、お箸でつまむとフルフルとふるえ、ほどよい黒蜜の甘みと共に、するん、するんと喉へ流れていきます。レモンの爽やかな酸味がアクセントになり、いくらでも食べられてしまうおいしさでした。それから、甘味のメニューとしては夏限定のかき氷も見逃せません。店長が開発した葛入りの氷は本店オリジナル。氷が溶けにくく、まろやかな味わいになるのだとか。柿シロップをかけたその名も「かき氷」と「抹茶」2種類の味を楽しめます。

どの一皿も丁寧に作られていることが伝わってくるようなお料理の数々。「お客様に喜んでいただくには、美味しく食べていただくにはどうすればいいのか」それをまず考えながら作っています、と話してくれたのは、店長の渡辺雅晴さん。

 平宗吉野本店 店長・渡辺雅晴さん

「にぎりでも、固い握りはおいしくない。食べてふわっととろける感じがお寿司はおいしいと思うんです。押し寿司は、また製法が違うんですけど、食べた時においしいな、と感じていただけるように作っています。」

柿の葉寿司を食べた時の、しっかりしているのに、口にいれるとほろりとくずれるあの握り加減ひとつにも、渡辺店長のこだわりがありました。笑顔を絶やさない物腰やわらかな話ぶりからは、親しみやすさと誠実さが伝わってきます。

老舗ながらどこか懐かしい、くつろいだ気持ちにさせてくれるこのお店の雰囲気は、渡辺店長をはじめ、このお店で働く皆さんの人柄からもつくられているように感じました。

2階の大広間では、柿の葉寿司の手造り体験(1,650円、5名~予約制)ができるのも楽しみのひとつです。柿の葉寿司の歴史や文化を描いた映画を鑑賞し(『つつむという優しい文化』河瀬直美監督作)、鯖と鮭2種類の柿の葉寿司・計8個を作って持ち帰ることができます。歴史を知り自分で作った柿の葉寿司は、また一段と味わい深く感じられるのではないでしょうか。

吉野本店では、伝統の鮎料理・郷土料理の他にも、地元の猪肉とシカ肉を使ったハンバーグや丼物をいただくこともできます。また期間限定の新メニューがお目見えすることも。地元の人に愛され、喜んでもらえるお店でありたい。伝統はそのままに、創業以来の味を受け継ぎながらも、なお進化を続ける平宗吉野本店。吉野に来たならば、ぜひ訪れてほしい地元の名店です。

平宗 吉野本店

住所:奈良県吉野郡吉野町飯貝614
TEL:0746‐32‐2053
営業時間:8:30~18:30
定休日:月曜日(祝日の場合は翌日)
駐車場:あり(14台)
HP:http://www.hirasou-yoshinohonten.jp/

※文中の価格は全て取材当時の価格(税別)です。

ウズラたま子

ウズラたま子

奈良生まれの奈良育ち。丁寧な暮らしを心がけているが、のんびりした性格がたたり、最後には丁寧さを捨て去ってしまうどんくさい日々。図書館、古い町並み、ラジオが好き。歴史とお芝居が大好き。2児の母。

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