前回「吉野しめじ」の工場見学と実食を経て、キノコに対する興味がムクムクと湧いてきた私。しめじとは違う育て方をするキノコについても知りたいなぁ…と思い、次は奈良県吉野町で原木しいたけを生産している「新鮮しいたけ おかもと」さんに伺いました!
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今では貴重になった「原木しいたけ」
しいたけには、おがくずや栄養剤を混ぜた培地で育てる「菌床しいたけ」と、木の養分だけで育てる「原木しいたけ」の2種類があるのをご存じですか?市場の9割を占める菌床しいたけは低コストかつ短期間で1年中大量生産できますが、昔ながらの方法で栽培される原木しいたけは出荷までに手間も時間もかかるため、スーパーなどでは滅多にお目にかかれません。
しいたけ農家の3代目として生まれた岡本隆志さんは、実は昔はしいたけが好きではなかったそうです。しかし、大人になってから友人たちとバーベキューをした際にお父様が育てた原木しいたけを食べ、その美味しさに感動して見方が変わったといいます。その後吉野町を離れて働いていたものの、次第に「当時バーベキューで友人たちが褒めてくれた原木しいたけを自分も作りたい」と思うようになり地元に戻ってきたそうです。
原木しいたけができるまで
しいたけを育てているハウスにお邪魔して、原木から生える過程について岡本さんに教えていただきました。原木しいたけは1本の丸太から何回(何年)か収穫することができるため、美味しいしいたけを何度も収穫するためには栄養豊富な木を調達することが重要です。栽培に適しているのはナラとクヌギ。自分の山で採れたものや奈良県内の木も使いますが、良質な原木を求めて大分県まで出向くこともあるそうです。
約1mの大きさに切られた原木には、菌を植えるための小さな穴が約60個あけられます。その穴に木の種類や状態に合わせて選んだしいたけ菌の塊(弾丸状のおがくずに植えられた菌)を押し込んだら、次は木全体に菌が広がるように繁殖させる工程へ。適度な温度と湿度を保つため木にシートを被せて約3か月(3月~5月上旬)寝かせた後、天地をひっくり返してさらなる菌の成長を促す工程を経て、いよいよしいたけを発生させる準備に入ります。
いくら原木全体に菌が繁殖しても、「刺激」を与えなければしいたけが発生することはありません。その刺激とは、木を地面に叩きつけたり水に沈めたりすること!その年に初めて菌を植えた木は短い浸水時間でも十分な刺激になりますが、収穫を重ねた木には強めの刺激が必要となり、最長20時間程度浸水されたり叩きつけられたりするそうです。
気持ちよく原木の中で暮らしていたのに、水責めや地面に叩きつけの刑に遭うのか…。少ししいたけ菌が不憫ですが、この刺激を受けてから夏季は約1週間、冬季は約10日でしいたけは原木から顔を出して収穫できるサイズへと成長します。
ハウスにずらっと並んだ原木を見ると、しいたけは菌の塊を植えた穴以外にも木のあちこちからが生えています。狭そうに数本くっついて生えているものや1本ひょっこり生えているもの、大きいもの小さいもの…。しいたけは「ちょうどいいサイズのものが、適量生えてくれ」なんて人間の願いは意にも介さず好きなように生えてきます。ハウス内を案内しつつ、「この木は元気すぎるね。小さいしいたけがたくさん出すぎ!」「逆にお前はもうちょっと頑張って生やしてくれないか?」と、木に話しかける岡本さんの姿は微笑ましくも、原木で育てる難しさを物語っているようでした。
無数に並んだ原木それぞれから気ままに生えるしいたけ。収穫のタイミングを見極めるのはさぞ難しいのだろうと思いきや、「傘の裏の膜が開いてきたら収穫時期なので、意外とわかりやすいですよ」と岡本さん。経験を重ねると、わざわざ下から傘の裏を覗きこまなくても感覚でタイミングがわかるそうです。ちょうど良い頃合いのものを選んでいただき、私も収穫させていただきました!
しいたけの根本(軸)部分をつまんで上下左右にひねるとポロっととれる…と聞いたものの、私が収穫しようとしたものは木にかなりしっかりと生えていたようで大苦戦。左右にひねることもままならず、3分ほどの格闘の末ようやく収穫できました。採れたて原木しいたけは香りが濃い!
採れたて原木しいたけを実食
自力で収穫したしいたけをその場で試食させていただきました。岡本さんによると、しいたけ特有のくさみがなく肉厚でジューシーな原木しいたけの旨味が一番感じられるのはシンプルなソテー。石突きを取って縦に手で割き、熱したオリーブオイルで炒めます。この時傘から「キューキュー」と音がしていたのですが、これはしいたけから水分が出ていく音なんだとか。キューキュー鳴くしいたけの方がよりジューシーなのだそうです。火が通ったら、仕上げに塩をぱらぱらっと振って出来上がり!
傘の部分から食べてみると、プリップリな食感で旨味がとても濃厚!噛みしめるとしいたけの香りが鼻に抜けていきます。栽培の過程で与える水分を与えすぎないようにすることで、味や香りが濃厚になるのだそうです。
一方、軸の部分は歯触りが楽しいコリコリした食感。そして、甘い…?今までしいたけからは感じたことのない甘みに自分の味覚を疑っていた私ですが、岡本さんから「甘いですよ。木の栄養をたっぷり吸った原木しいたけならではの味です」との一言をいただき一安心。原木しいたけはナラやクヌギといった樹液が出る木で育てているため、木の栄養と共にその甘さも吸収して甘くなるのだそうです。
「スーパーなどの催事に出店して試食販売を行うと、香りにつられて子供たちが寄ってきてパクパク食べることがあります。そして、それを見た親御さんから『この子、しいたけ嫌いなのに食べるなんてびっくり!』と言われることも多いですよ。子供は本当に美味しいものが感覚で分かるんでしょうね。しいたけ嫌いの大人の方にも、騙されたと思って一度挑戦していただきたいです」と笑う岡本さん。
キノコ好きの方だけでなく、嫌いな方でもきっとしいたけに対する見方が変わる岡本さんの原木しいたけ。通販や吉野町のスーパー、明日香村で開催される直売市で購入できるほか、奈良県内のいくつかのレストランで原木しいたけを使った料理を味わうこともできます。皆さんも奈良にお越しの際はレストランに立ち寄ったり、お土産に買って帰ったりして「新鮮しいたけ おかもと」の原木しいたけの美味しさをぜひ味わってみてくださいね!
新鮮しいたけ おかもと
住所:奈良県吉野郡吉野町樫尾51−1
TEL:0746-36-6711
HP:https://www.fresh-shiitake.com/index.html